プロローグ
僕の大学生活ってこんなはずじゃなかったのに...と、横溝 雅司は隣に立っている女の子...奏矢 ジュリを見つめたのであった。
今、彼らが居るのは、廃病院。廃病院なんかに居る理由は、肝試ししに来たからであった。
\ドッワハハハ/
じっとりと蒸れた空気が、体を包む。そんな熱帯夜なのに、体に伝うは冷や汗。
どこからか大人数で笑う声が近づいてくる。”あいつ”が...”ガンプ”がこっちに来る...
なんでこうなったんだ...?と、雅司は走馬燈のように今までのことを思い返していた。
彼は大学に入るまでは普通の生活を送っていた。
飲み会に行ったり、ドライブに興じたりゲーセンに入り浸ったり、友人だってそこそこ居る、そんな平凡な生活を送っていた。
サークルにだって参加している。養蜂を主に行うサークルだったが...
端的に彼を説明するなら、毒にも薬にもならない、冴えないが程よい、いいヤツである。
そろそろ本格的に夏も始まろうかというある日、友人の田中 篤から、「合コンに来ないか?」と誘われた。
「行く行く!」
男とは単純かつ、悲しい生き物である。この誘いに雅司にホイホイと乗ってしまうのであった。
三日後、友人から合コンに参加させられる。彼は所詮、数合わせなのだが、初めての合コンだったので雅司は舞い上がってしまった。
合コンには雅司を含む男子3人、女子3人の計6人が参加した。
当日、居酒屋のお座敷に通された6人はそれぞれ男女に分かれて、対面に座った。
「みんなー、何を頼むー?」
「じゃあ僕は生ビールで。」雅司がその声に応える。
全員に注文したお酒が行き渡ると、幹事が乾杯の音頭を取る。
各々がグラスを片手に、その音頭に合わせる。
「カンパーイ!」
雅司は本当はあまり好きではないのだが、ここは女子に良い顔をするために、生ビールを頼んでいた。
やっぱり、まずいなぁ...と思いながら、ビールをあおった。
程なくして、自己紹介タイムが始まる。
「僕の名前は横溝 雅司って言います!よろしく!」
ちょっと噛んだが、そこそこ女子からは好印象だった。やや緊張しながらも女性陣の容姿を見渡す。「ん...あの子可愛い。」
その子は黒髪であったが、特徴的なのはその碧眼である。抜ける様な青さに、雅司は惹かれたのだった。
雅司がその子に見とれている間に、次々と男性陣が自己紹介を行う。
先輩の佐藤 剛が立ち上がりながら、「今日は集まってくれてありがとう!俺のことはタケちゃんって呼んでね!」
友人で幹事の田中 篤も続いて「えー、今回の会の幹事の篤です。今日は楽しんでいってください。」
次は女性陣の自己紹介の番だ。同じく幹事の佐久間 奈緒、一見するときつそうな性格の志村 紫苑、そして先ほどから気になった碧眼の子に順番が回る。
「奏矢 ジュリって言います。今日はよろしくね。」
「ジュリちゃん、もしかしてハーフ?」剛が声を上げる。
「ええ!アメリカと日本のハーフです!」
「ああ~、可愛いねぇ。」
剛は思いっきり、ジュリに粘っこい目線を向ける。「こいつ、ジュリさんをターゲットにしやがったな。」と雅司は心の中で毒づいたのであった。
雅司はその後の席変えでジュリの横を取ろうとしたが、剛に取られてしまう。「ジュリちゃん、今彼氏居るの?」だとか「この後、2人でどっかに行こうよ。」などと話しているのが聞こえる。ジュリはとても嫌そうな表情をしていたが。
その後は別段、何があるわけではなく、わいわいと楽しい時間を過ごした。
三時間ほど経った頃、篤が立ち上がる。
「そろそろ時間が来てしまいました!とりあえず、いったんお開きしたいと思います。」
お、二次会か。次はジュリちゃんの隣を狙えたら良いなぁ、と雅司は考える。
そんなことを考えながら、居酒屋を出る。
居酒屋を出てすぐに、次どうする―?などとみんなで話し合っていると、剛がここぞとばかりに大きな声で提案する。
「なぁ、肝試しに行かないか?」
ええ~!?と雅司は思っていたが、この提案に篤と奈緒と紫苑がのってしまう。所詮、酔っ払いである。
その場の雰囲気に流されて、肝試しに参加することになってしまったのであった。