「Afraid」
「…っ」
手にキスをする直前、俺は、リオを見上げて戸惑った。
忠誠を誓う間柄じゃないし、端から信頼し合っている。
それは分かっていたけど、彼がここまで柔らかく笑うことに、少し驚いてしまった。
「では、これにて忠誠の儀式を締めさせていただく。…頭を垂れよ」
俺はガバッと頭を下げ、リオとやっていく決心を固めた。
警察が邪魔だった。
父親は工場で指示を出す係りに就いており、家族四人養うのにもじゅうぶんの地位を貰えていた。
でも。
「…ちっ、」
工場での爆発。警察は父親だけを見棄てた。
「おい、ヴィッカ」
「…悪い、少し考えていたんだ」
「マクガフィンか?」
「マクガフィンなんて自然現象だ、意味もない」
マクガフィン。例えるなら意識の違いのようなものだった。
マフィアならばそこから殺し合いにだって生り得る。でもそんなものは何にも変われない。
「ヴィッカは警察をしばくのが夢だったな」
リオが煙草に火をつけながら言う。俺はこくりと頷いた。
「だからリオに着いてきた。以前におまえのことは気に入ってるしな」
いいパートナーになれている気がしていた。
俺がこのランディスファミリーに入ったのは、警察をしばく為だった。
どうして見棄てたのか。どうして父だけ。
俺の家族を、突き墜としたのか。
「しかしまあ、今ではすっかりマフィアも板に付いてきたな」
ウォッカをぐいっと飲み干す。
「来たばかりの頃は、それこそ拳銃すらまともに握ってなかったじゃねえか。ったくよ」
「うちは良家だったからな」
嫌味な奴だ、と、リオはまたウォッカを被った。俺にはこんな度数の酒は呑めないな、と思わされる。
「…で、だ。次の話なんだが」
表情が一瞬で変わった。
ソファに深く座り直すと、まっすぐに彼の方を見る。
マフィアのこの手の話と来たら、そういうもの意外にない。
それももう覚悟の上で、俺はリオとマフィアをやってる。
「…………ジューダスから連絡があった。オルガファミリーの嫁が、うちを潰そうと企ててるらしい。…そうなられちゃ困る、ってことで…」
「…殺るんだろ。俺が手伝う。ジューダスを潜入に回したら効率的にも何ら問題ないさ」
言わんとしていることは分かっていた。
反逆者は殺す、それがマフィアのやり方なのだ。
俺はそんなマフィアに乗っかって、リオを助けてあげるだけ。
んでもって、警察を討つ。
「…すまねえ。今回はとりあえず、嫁とオルガだけ殺ればいい。…頼む」
もちろんリオも一緒に殺しに行く。でも、彼の弟子に、リオには穢れる真似をさせたくないと言われたために、最近ではほぼ俺が手にかけるのが多くなった。そのせいかどんどん腕も上がってきて、喜べることか分からないが、実力は認めてもらえるようになった。
「セリカ、幹部会の時間は分かってんな?」
リオが電話に呼び掛けた。相手は彼の弟子である女性・セリカらしい。
『もちろんです、リオ。そちらにいない面子は?』
「んー…、ウィルコとシュテルぐらいだな」
『分かりました、声を掛けてきます』
「いや、いい。とりあえずこっちにいるのとセリカがいりゃあいい。戻ってこい」
しばらく話して電話を切ったリオは、こちらを向いて笑って見せた。
「お前、セリカは初めてか?」
「ああ、名前は耳にしたことあるが、会って話したことはないな」
そうか、と下を向いたリオは、徐にこう話した。
「セリカはな、俺の一番の弟子なんだよ。あいつがまだガキだったとき、母親に棄てられてたのを俺が拾ったんだ。そこからずっと、残酷なことだって何だって、失敗なんかしなかったんだ。さらっとやってのけたんだよ」
誇るような口調なのに、どこかもの淋しそうで、俺はただ黙っていた。
「でも今思えば、純粋なガキにそんなことさせた俺は、さ…」
「生きるってのは、…そんなもんだろうが」
彼が全て言う前に、俺は被せて言葉を奪った。
悪りい、と言った彼に、今までにない弱さを感じながら。
つづく
今回はマフィア(なの?)のお話。
主人公は根が強い子なので愛してます(語彙力
この作品の存在を忘れないうちに頑張ります