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フトレイウェン  作者: 苦澄 蒼
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第六章 客人

登場する団体名や国家、人名は完全に架空のものであると誓います。

「たのもー!」

威勢の良い少女の声が部屋中にこだまする。なにごとか、と扉は一大スターのように皆の注目を集めた。

「凍洲さーん!お迎えに伺いましたー!」

僕はびっくりして思わず条関のほうを見てしまったが、彼は首を振るばかり。

「お前、又何かやったのか?」

「…してない…はずだ。第一ここのところは記事の執筆ばっかりだったし。」

「じゃあ彼女は誰なんだよ。」

親友は扉を蹴破らんばかりの勢いで開け登場した白髪の少女を指さした。

「まさか…隠し子?」

「そんなわけあるか!」

「おお、こわいこわい。」

お前のせいだろ!、という突っ込みを飲み込み、僕は少女に問うた。

「凍洲は僕だよ。何か御用かい?あとね、会社で働いてる人間に会うときはあらかじめアポをとっておいたほうが…」

「そんな場合ではないのです、凍洲さん!さぁさ、早くこちらへ!」

待て、という声も聞かず強い力で引っ張られる。エレベータに乗り、編集長の制止を促す声が聞こえなくなるまで来たところで、君は誰なのかという最大の疑問を口にする。

「僕は登条智深のぼりえだ ひとみです。八宇新聞本誌の国際担当。」

「は?」

今の一音節には様々な意味が込められている。この智深とか名乗る少女は、どこからどう見ても小学生か、大きくて中学生にしか見えない。そんな少女が大手新聞社の国際情勢なんて言う最もと言っていいほど生臭い項目を書いているというのなら、世も末だ。いやそもそも労働年齢に達していないだろうに。というか、どうして本誌に自分が呼ばれているのか。そして、どうでもいいがなぜ女性なのに一人称が僕なのか。

「あ、もしかして『どうしてこんな小っちゃい子が新聞なんか書いてるんだ』とか思いました?」

一部だけ当たっている。恐らくよく言われるのだろう。

「よく言われるんですけれど、これでも僕、16歳ですよ?それも誕生日まだだから、高校に通っていたのなら高校二年生。子供扱いはやめていただきたいですねー。」

「わが社は中卒者は受け入れていないはずだが。」

「やだなー、僕はスカウトされてはいったんです。」

「スカウト?」

「ええ。ブログとか呟くやつとか叫ぶやつとかでテキトーにもの書いてたらなんかメールが来ましてねー。」

そんな適当な奴に本誌を書かせているのか、わが社は。国内一の保守系新聞社の名が廃れる。

「もちろんちゃーんとお仕事してますよ?ほらこの記事、貴方も読んだでしょう?」

見せられるのはこの間のアイドニ滅亡に関する記事。…確かにわが社の国際情勢に関する記事は質が高いと評判である。

「へぇ。よくやってるじゃないか。」

「でしょー!際延君、良い筋してるねー。」

いきなりのため口に流石にイラっと来た。大人に口を利くときはもう少しリスペクトをもって丁寧に…。

「おやおやー?際延君、僕に対してちょーっとイラついちゃったー?困るなーこれから助手として頑張ってもらおうと思っているのに。」

「助手?」

面を食らう。聞いてない。

「まぁ辞令は明日下るしね。」

「じゃあまだ僕はオカルト雑誌担当さぎしじゃないか。なぜ連れ出すんだ。」

「決まったなら早いほうがいいじゃない。人手不足で困ってるのよ、僕だって一人でアレ書くの面倒だし。」

「一人?」

「ああ、ご存じないでしょーね。僕がどんなに苦労してあの膨大な量の記事を書いているのか。」

あの質の高い記事達を毎日朝夕一人で書いているのかと思うとゾッとする。いや、一人だからこそあそこまでまとまりが取れている記事が書けるのかもしれないが。

「際延君、君には今日から僕の助手として取材と記事執筆を手伝ってもらいまーす。」

「…もはやコメントに困るな。」

「まぁまぁ。そうそう、君の呟くやつを見させてもらったんだけど―…」

…見たのか、あれを。幼稚なイデオロギーに塗りたくられたかわいそうな呟きたちを。

「うーん、ある程度は視点はいいかもしれないけど、いかんせん文章能力がテンでだめだねー。」

「仕方がなかろう、限られた文字数でいいたいことを全部書くのは大変なのだから。」

「そういう割には、やたら遠回しな言い回しが多すぎるのよ。僕から言わせてもらえば、君は全く新聞執筆に向いていない。」

少女にそこまで断言されると、さすがの僕でも傷つく。

「…じゃあなんで僕が君の助手に選ばれたんだ?君は一人でもあんなに良い記事が書けるのに。」

「言ったでしょー大変だって。あとね、僕が指名したのよ。君は僕の助手をやっているのが一番良い。」

「なぜ。」

「これもさっき言ったことだけど、『ある程度』はいい視点してるし、ちゃんと意見も持ってる。わが社は中立的な記事を良しとしないからね。まさにマスゴミの鏡って感じで。」

その点は否定しない。八宇の記事は基本保守色で埋め尽くされている。左派的な意見どころか、中道な意見もあまり見受けられないのが実情だ。世間の人間はそれをマスゴミと呼ぶのだろうが、それでもここまで大きな会社でいられるのは、一定の層はそういう記事を望んでいるということなのだろう。このご時世ならなおさらに。

「それにね、君はオカルト雑誌の記者をしていた。」

「している。な。」

「まぁ細かいことはどうでもいいの。なんにせよ、今後は絶対にそのキャリアが役立つ。僕はそう確信しているのです。」

なぜか。僕の問いに彼女は急に真剣な顔になった。

「世界は大きく変わろうとしているの。いろんな国の行動を見てきて思った。気が付いていないのは大東皇国だけ。そう、我が国だけが新しい時代の新しい課題に対応できない。今のままではね。」

「…」

何を根拠に彼女がそう言っているのかはわからない。しかし僕は彼女が本気でそう言っていることだけはわかった。その真剣な表情を浮かべた顔についた二つの目には曇りが一切なかったから。

「新しい課題とは?」

彼女は悪戯らしく微笑んでこういった。

「さーね。僕にだってまだわからないんだ。」

ふふ、という笑みを浮かべた後、又先ほどのテンションを取り戻して扉を開ける。

「さあ、いらっしゃい。ここが僕の城、八宇新聞国際部!」

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