第参章 フトレイウェン
登場する団体名や国家、人名は完全に架空のものであると誓います。
「主席!」
真神人民帝国の国府は揺れていた。
「アイドニ帝国がナトブ南部に侵攻、発砲。我が軍と戦闘状態に!」
「またか。」
アイドニ帝国はつい300年ほど前にナイアティルブ連合帝国から独立したアイセイの新興国であるが、近頃は「アイセイ開放」と吠え人民帝国の属国によく入り込んでくる。
「状況は?」
「わが軍優勢です。」
しかし伊達に4000年の文明を持つ国家ではない。それに大東皇国を抜かし今やアイセイで最も強い力を持つ国家である。そう簡単に独立したての弱小国家に負けるはずもない。
「そのまま蹴散らしてしまえ。」
「はっ!『ウォスネット』!」
転移の「魔法」。惑星から何の物体も仲介せずに直接エネルギーを抽出し、様々な行為を行う新技術によって実現したワープ技術である。
「魔法」を行使するには全世界共通の「呪文」を唱える必要がある。その呪文を現在12歳未満の人間の場合は体内に埋め込まれた機器が、そうでない人間は腕に取り付けたか、後から埋め込んだ機械が聞き取り、技術を応用して現象を起こす。呪文には全人類が知っているようなものから一部のものしか知らないものまで多様な種類がある。
ここ真神人民帝国、通称人民帝国は「魔法」を武力とし、他国よりも多くの魔法を国民の体にインストールしている。それを考えれば、銃をもって人民帝国に歯向かおうとするアイドニ帝国は愚かであり、勝ち目などないということは自明の理であるといえる。
「魔法」研究は旧時代における軍事開発と同義である。そしてそれがもたらす副作用によって人々はまた一つ豊かになるという点でも同じだ。
ただし国際法において”新しく魔法を開発し、それを自国民に普及せしめんとするならば、その呪文を全世界の人民に向け公開せねばならない”と定まっている。それゆえ人民帝国は法に背いているといえるのだが、なにしろアイセイ一の強国であるがゆえに、物申す国はいない。
「主席!」
「今度はなんだ。」
「アイドニ敗走。我が軍の勝利です。」
「そうか、それはよかった…。」
威恵主真神人民帝国国家主席…人民帝国元老院議長である彼の瞳には明確な闘志が宿っていた。
「すぐに皇帝陛下の御耳に入れろ。それと…」
「はい?なんでしょう?」
「東に戦力を集めろ。」
「…御意。」
「…『西』の皇帝よ、貴君の無念はここで晴らそう…。」