第弐章 腹の立つ警官
登場する団体名や国家、人名は完全に架空のものであると誓います。
第弐章 腹の立つ警官
僕が英都町のオフィスビルを出たのが12時40分頃だったから、石老斜につくのは14時近くになるのだろうか。飛び乗った電車に揺られながらスマートフォンの時計を見て考える。
(聞いたところによれば事件発生が12:25。つまりは到着するころには1時間と30分くらいは立っていることになるな…警察による調査が進んでいるだろうが、その進捗状況が良いほうが吉か悪いほうが吉かなんてのは担当する警官によるからな…。)
そもそも、警察が「オークがやったって本当ですか!?」なんて質問にきちんと答えてくれるとは思えない。仮に実際にオークがやったと分かったとして、そんな異常事態を国民にすぐに発表するような真似はしないだろうし、そもそもそんな事態にはなっていないのだろう。
(また読者をだますことになるのかな…。)
僕はオカルトに特別興味があるわけでもないし、信じているわけでもない。この部署は才能のない僕を記者として拾ってくれただけであって、恩こそ感じてはいるもののやっていることに罪悪感は抱いている。どうせ数か月後には真相は明らかになっているだろうし、だからと言って批判が来るのでもないのだから謝罪の場さえ設けてもらえない。そんなつらく苦しい生活からは早くおさらばしてしまいたいというのが本音だ。
そうこう考えている間に寝てしまったようで、気づけば目的地についていた。
「事件現場へは…南口が近いな。」
大帝都東恵の一部とはいえ、ここら辺は地方都市のようなものだ。田舎でもなければ都会でもない。こういう雰囲気の街は結構好きだったりもする。
町に見とれながら歩いているうちに有片城跡についていた。ここで「オーク」が男女二人を襲ったようなのだが…どうやら警察によって進入禁止にされているらしい。
「すみません。八宇新聞社の週刊誌「トラコクルト」記者の凍洲際延と申します。取材を…」
「あああのオカルト雑誌?しかも八宇新聞のでしょ?だめだめ。まだ全然現場の調査もなにも終わってないんだから。」
そんなはずはない。なんならもう犯人の正体がわかっていてもおかしくない筈である。例のテクノロジー(フトレイウェン)のおかげで。
「そこをなんとか…」
「無理なものは無理なの。はい帰った帰った。明日くらいにはほかの新聞社のおこぼれもらえるんじゃない?」
この反応は…こいつリベラルだな。そう確信した。八宇新聞の天敵である。
「いつまで突っ立ってるの。はい、まわれ右!」
…別にリベラルの考えを全否定したいわけではないが、こいつの態度には腹が立つ。なんなら今すぐにでも火炎を足元に生み出して火だるまにしてしまいたい。
「レタウォ!」
そう考えた瞬間に空から水が降ってきた。新しい手帳が早速びしょ濡れに。
「帰ってくれ帰ってくれ。鬱陶しいな。」
頭にきた。こうなれば…。
「そうそう。そのまま百歩二百歩三百歩。」
鬱陶しいのはあんたのほうだ。いつまでこっちに構う気なのか。
「はいはいじゃあね。さよならグッバイフォーエバー。」
「エスィ」
「ぐふぉっ」
…人通りの多い場所で本当に良かった。小声で詠唱したために誰にも聞かれていないだろうし、誰がやったかもわかりにくいだろう。それに皮肉にも、「魔法」で「魔法」犯罪の犯人は見つけにくいものだ。
集まってきた野次馬にまぎれて氷塊でしたたかに頭を打ったかわいそうな彼の隣をすり抜け、公園に侵入した。
「アキエムウォート」
一般人は使用不可の透明化「魔法」。軍関係者から密かに得た「呪文」だ。
(さぁ、取材開始だ。)
こういう時に限っては、この仕事でよかったと本当に思える。