合流
どうやら寮の部屋は、前衛組と後方支援組で、部屋が分かれていたようだった。
パイロットや砲兵に志望する者達は、沙也加から見る限り地獄のような訓練をしているようだったが、管制官を志す沙也加と恵、航空整備士を志望している雪乃や悠は座学がメインだった。
整備士組と管制官組は、別々の勉強をしていたが、昼は食堂でかたまって食べた。
食堂では、沙也加達105号室のメンバーが食べている机の周りの人口密度が高くなっていた。
当然だろう。自分で言うのもなんだが、沙也加は顔も悪くない方だとは思っているし、何より他三人がとてつもなく美人だ。この中にいたら沙也加など霞んで見えるだろう。
正直、体育会系の集団の中に入っていけば、自分は相当上位に付けるのではないか、と考えていた沙也加でも勝てない相手が、三人も同じところに集まっているのだ。
他の部屋の女子の中にもそういう子はちらほらいるが、ばらけているところに行くより、かたまっているところに集まってくるのだろう。
ただ、声はかけてこない。おそらく一人ずつバラバラでいたのなら声をかけてくる者もいたのかもしれないが、美人の集団に声をかけに入って行ける程の度胸の持ち主などそうはいないだろう。
駆除隊の第一部隊は明日、国際海軍と合流する予定だそうだ。
沙也加達のような入隊間もなく、経験のない兵が部隊員に選ばれることは少なく、大卒組の尉官の中から特に優秀だと思われる数名が参加したのみで、残りの大部分は自衛隊からの転属組が占めている。
沙也加にしても、いくら早く父の仇をとりたいとはいえ、ろくに経験も技能も無いまま実戦に投入されるのは困る為、特段悔しいということはなかった。それよりも今は、次か、その次の部隊に参加することを目指して知識を蓄えることが最優先である。
翌日、第一部隊が無事、国際海軍と合流したという報がもたらされた。
第一部隊として出撃した船舶は、隅田型雷艇母艦の三隻でそこに自衛隊の護衛艦『あおば』が同行している。
第一部隊が横須賀を発ったのが3月30日の午前10時、そして合流地点である真珠湾に到着したのが、本日4月10日の午前8時である。
予定では隅田型雷艇母艦の三隻に加え、山彦型高速砲艦一番艦の山彦も同行する予定であったが、完成が間に合わず断念。山彦が完成したのは4月1日であった。
もともと、山彦の同行は建造開始時期から考えて無謀であると言われていたにも関わらず、間に合わなかったとは言え出発の二日後に完成したとの話を聞いた時は、エイプリルフールのネタかと思ったものだ。
第一部隊として出撃した隅田型雷艇母艦の二番艦である四万十には、戦場ジャーナリストが一名と駆除隊の広報官として一期生である大卒の尉官が乗船しており、船内から逐次情報が発信されている。
それによると、道中は特に大きなトラブルも無く到着した模様で、パールハーバーで待機していた国際海軍所属の各国軍人達との昼食会の模様も報告されていた。
第一部隊が合流したのは、国際海軍の太平洋部隊で、参加国はアメリカ、ロシア、オーストラリア、ニュージーランド、中国、韓国の六ヵ国、日本を含めて七ヵ国である。これは、各部隊の中で一番少ない参加国数だが、先進国で占められており、ロシア以外の六ヵ国が主力部隊を投入し、韓国に至っては全戦力を太平洋にのみ投入する為、大丈夫だろうとの判断である。それよりも、参加国数が太平洋部隊に次いで少ない八ヵ国の、インド洋部隊の懸念が強く、またその参加国の内オーストラリアと中国は主力を太平洋部隊に投入している為、大きな戦力が無いことが主な懸念材料である。
駆除隊が合流を予定しているのは、主力を投入する太平洋部隊の他に、北極海部隊と南極海部隊で、どちらも、欧州からの参加がある為、戦力的には申し分無いが、特に南極海部隊は補給線が長くなってしまうことが懸念されている。
純粋な、つまり全戦力を投入する南極海部隊はアルゼンチンと南アフリカ共和国のみで、他は主力を太平洋に出し、インド洋にも戦力を割いているオーストラリア、同じく主力を太平洋に出しているニュージーランドだけが南半球の参加国である。ヨーロッパからはスペイン、イタリア、ポルトガル、フランスが南極海部隊に主力を投入するが補給線は長く、残りの参加国である日本とアメリカに至っては補給線の長さに加えて主力部隊ではない。
北極海部隊は、純粋な参加国であるノルウェー、グリーンランド、アイスランドに加えロシア、ポーランド、ドイツ、イギリスの主力部隊とカナダ、アメリカ、日本が参加する為安泰であると言える。
最後に大西洋部隊は、純粋な参加国が八ヵ国と非常に多く、加えてカナダの主力と欧州七ヵ国の第二部隊が参加する上、僅かながら、アメリカとロシアが参加する大部隊となっている。