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発芽

 戦いはたった二ヶ月半で幕を閉じた。

 あまりにも圧倒的だったそれは、人類の攻撃で傷一つ与えることが出来なかった。

 殆どをプログラムや衛星通信に頼っている現代兵器では、ハッキングによってコントロールを奪われて、『それ』に辿り着くことすら出来なかった。

 それの攻撃範囲は半径20kmであったが、そのハッキング範囲は半径40kmへと及んでいた。

 無誘導の爆弾を落とそうにも、上空40000mもの高高度を飛行できる航空機など無く、無誘導の砲弾を撃ち込もうにも射程が40km以上もの砲を持つ船など、第二次大戦以降開発されていなかった。

 無誘導のミサイルなどでも同様に、電子制御されている為命中しなかった。

 また、物量で攻めて、ハッキングを追い付かなくさせる案も出されたが、ハッキングされたミサイルが、大量に都市部へ向いてしまう可能性も考えられた為、実行されなかった。

 安全装置として自爆する装置をつけることも考えられたが、その自爆機能にハッキングされてしまった場合どうしようもなくなってしまう。

 なにより恐ろしいのがそのハッキング能力で、一度コントロールを掌握されてしまったものは、ハッキング射程の半径40km圏内を脱出したとしても、コントロールを取り戻せないということである。

 つまり、ミサイルがハッキング射程を出てから自爆すれば良い。という考えも実行できなかったのである。




 幸平は一週間程で退院した。元々目立った外傷は無く、念のための検査入院であったため多くの時間を必要としなかった。

 その間、様々な人が話を聞きに来た。幸平自身、信じられない光景であったが、実際に見たもの、であってしまったものについて、ありのままを話した。シモンズ少佐や、その後に出撃した者たちの話とも一致していたことから、信じては貰えたようだが、現場には復帰させて貰えなかった。

 自分の尊敬していた先輩、目指していた先輩の背中は遠く手の届かない遠くへ行ってしまった。永田三佐は一等海佐になっていた。



 信也君に会いに行ってみよう。

 そんなことを思ったのは、『あれ』との戦闘が打ち切られて数週間した頃だ。

 永田一佐の家には度々お邪魔したことがあり、そのたびに息子の信也君と遊んだものである。信也君は幸平に懐いてくれていたようだったし、幸平も彼のことを弟のように可愛がっていた。

 永田一佐が亡くなったあと、奥さんは信也君を連れて実家のある千葉県に引っ越したらしく、永田一佐と親しかった幸平には、奥さんから連絡があったのだった。



 信也君は、良い子だった。とても強くて、とても良い子だった。見ている大人達が泣いてしまいそうな程に、良い子だった。

 千葉県の流山市。信也君の家を訪ねたとき、彼は笑って出迎えてくれた。三ヶ月程前、永田一佐のお葬式で見た彼の姿が嘘のように。しかし、やはり小学生がどんなに無理をして表情を隠しても、幸平を含めた周りの大人には、それが周囲に心配をかけまいと気丈に振る舞う姿なのだということがよくわかった。

 だからこそ、言ってしまったのかもしれない。そんな姿が見ていられなくなって。周りに気を遣って感情を抑え込むのではなく、むしろ悲しむ姿を見せて、自分達大人に甘えて欲しくて。

 でも、甘えていたのは幸平の方だったのかもしれない。

 信也君は頭がよかった。テストで満点をとるだけでなく、普段から物知りだと褒められて嬉しそうにしていた。

 そんな彼に甘えてしまったのだ。彼はまだ小学生だというのに。気丈に振る舞う姿を見るのが嫌になって言ってしまった。『お父さんの仇を討とう。』と。



 『あれ』に対する攻撃は打ち切りになっていたし、世間にもそう発表されていたが、人類が討伐を諦めた訳ではないことを幸平は知っていた。

 ただ、今はまだ技術が足りないのだ。公にはされていないが、『あれ』を討伐するための策は、各国で進められているだろう。

 幸平も直接聞いた訳ではなかったが、攻撃中止となるとき、反対した者達に対して、そのようなことが仄めかされたという。

 だから信じていた。きっと信也君が大人になる頃には、『あれ』に対抗する手段ができているだろうということを。




 お父さんが死んだと聞いたとき、頭が真っ白になった。どうしたら良いのかわからなくなった。わからなくなって、心配そうにしているお爺ちゃんやお婆ちゃんを安心させることを優先した。

 お爺ちゃんもお婆ちゃんも、『偉いねぇ。強いねぇ。』と言って褒めてくれたが、その顔はなぜか悲しそうだった。

 お母さんも悲しそうにしていた。だから、僕が守ろうと思った。いつもお父さんに言われていたから。『お父さんがいなくなったら信也がお母さんを守るんだぞ。』って。そう言われていたから。



 しばらくして、ゆき(ニイ)が遊びに来た。お父さんの後輩の島津幸平さん。いつも遊んでくれる優しいお兄さん。

 そんな彼が言った。『お父さんの仇を討とう。』と。

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