結成
『それ』がやってきたのは信也が十歳のときだ。『それ』は海の主となった。『それ』は街を襲う訳ではない。陸に近づくこともない。しかし、地球上の海を自由に移動し、半径20km以内に入った人間を攻撃してくる。近づかなければ害は無いし、無視すれば良いという声もある。事実、現在でも尚、海上交通は生きている。
ただ、陸に近づかなかったのは今までの話だ。『それ』が来てからまだ十五年も経っていない。『それ』が陸に近づかなかったのは偶然かもしれない。
もし陸に近づいたらどうなるのか。もし陸に近づいたときに『それ』の半径20km以内に大都市があったらどうなるのか。
我々人類に、その可能性を知らしめたのが、七年前の『千島海上石油プラント襲撃事件』である。
千島沖150kmを移動中の『それ』の予想進路の先に件の石油プラントがあった。
国際海上安全管理局(International Marine Safetycontrol Station)IMSSは、直ちにプラント職員に避難命令を出し救難ヘリを飛ばしたが、到着するか否かのところで攻撃を受けプラントは崩壊、プラント付近まで来ていたヘリも攻撃を受け撃墜。プラント職員十八名及びヘリクルー四名の合わせて二十二名の尊い命が失われた。
これを受け各国政府は、『国際海軍』を設立。宇宙からやって来た『それ』に立ち向かう決意を示した。
『自衛隊は国際海軍に参加しない。』これが日本政府の意向であった。
プラント襲撃事件の一番の被害国である日本が参加しないという発表に国際世論に衝撃が走った。
『自衛隊は日本を護るための組織であり【軍隊】ではない。国際【海軍】に参加させる訳にはいかない。』という主張がなされている。
しかし政府はこうも主張していた。
『日本は憲法九条により、【侵略戦争】を行うための武力を持つことは許されていないが、人を襲う恐れのある【害獣駆除】に際しては、武力を持つことへの制限はされていない。』
自衛隊の『国際海軍不参加表明』から僅か二ヶ月後、日本は自衛隊とは別に『特殊害獣駆除隊』を発足し、国際海軍及び自衛隊に『協力を要請する』という形で世界との共闘を開始した。