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第三話

人物紹介

ダラン・ケイリー:主人公。今でいう小1。大人しめのインドア派。

ナルマ・シントライ:主人公のクラスメイト。町一番の貴族。やんちゃなアウトドア派。


第三話


≪測定会にて、出会い≫



広場にはやはりすでに多くの子供が来ていた。

ダラン達はとりあえず適当に出店を覗いて回る。

やはり食べ物の店が多いらしく、あちこちから様々な食べ物の匂いがしてくる。しかしそれらの食べ物の匂いが入り混じることはない。不思議に思ったダランだったが、肉まんの屋台に置いてあった『風消臭:これでほかの臭いは気にしない!』と書かれた鳥の置物で理由は分かった。

ナルマはダランより先を歩きすでにマフィンを買っていた。

一口食べるとなかからフルーツジェルがとろけ出す。カップの色で味がわかるそうだ。ナルマは大好きな土イチゴ味のマフィンを美味しそうに食べている。


「わ!人形が踊ってる!妖精みたいだ!」


ダランは一つの出店を見て思わず声を上げた。様々な小さな人形が、鳥かごや時計の周りをくるくると回っていた。それらは半透明なものから、木彫り風のものまで姿形も多種多様だ。

どうやらこの出店は人形を売っているらしい。


「おや、坊や。これを見るのは初めてかい?」


出店の主らしい白髭を生やした老人は、興味深そうに人形を見ていたダランに話しかける。


「うん!はじめてみた!」

「そうかい、そうかい。じゃあとっておきを見せてあげようかのう」


老人はそう言って店の中へとダラン達を連れていく。店の中にも人形が溢れていた。

二人ともくるくると動く人形を楽しそうに見る。人形というと女の子の遊ぶものというイメージでいた二人だったが、ここの人形は本当に種類が多く魅せ方も多様な為、普段人形遊びに興味のない二人でも十分楽しむことが出来た。

そうして少し待っていると、老人はレジのあるカウンターの奥から少し大きめの箱を抱えて出てきた。


「これは売り物じゃないから普段は見せんのじゃが、二人に特別に見せてあげよう」

そういって老人は箱の前に二人を立たせる。前に立ってみるとただの箱だと思っていたものに扉がついていることがわかった。

扉の取っ手には頑丈そうな南京錠がかけられている。老人は南京錠のカギを外すとダランに向かって「扉を開けてごらん」と言った。


「いいの?」

「もちろんじゃとも。ただしびっくりするから気を付けるのじゃよ」


ダランは思わず隣のナルマを見る。ナルマもびっくりすると聞いてわくわくした顔でダランを箱とダランを交互に見る。そうして待ちきれないとばかりに肘でダランを突いた。


「ダラン、早く開けろよ」

「う、うん…いくよ…?」


ダランはごくり、唾を飲み込むと恐る恐る扉を開けた。

途端にぶわりと冷たい風が二人の顔を襲う。突然の風に驚いた二人だったが、その後にさらなる驚きが続いた。


「わあ…!」

「すっげー!」


二人は思わず声を上げる。

扉のなかでは雪が吹き荒れていた。そこに二匹の黒い毛皮に覆われた牛の魔獣人形が現れる。そして魔獣を追いかけるように光り輝く神獣―ユニセルフ―が一匹。

白馬のような体躯に四足すべてにきらきらと黄金の毛皮が光る。特徴的な三つ目が魔獣を捉えた瞬間、神獣の体から放たれた光魔法により魔獣は消え去った。

そのまま情景は春の景色へと変わる。

先ほどの神獣の周りで数人の人の人形が踊っている。箱のなか一面が花で覆われており、空にまで花のアーチが掛かっていた。人形達は箱のなかだけでなく箱の引き扉の辺りまで躍り出てくる。陽気な男女の様子にダレン達もすっかり楽しくなった。

くるくると踊っていた人形はやがて空が夜に変わったところで神獣の周りに集まり眠りにつく。そんな人々を慈しむ様に神獣が一鳴きしたくさんの星が空を舞ったところで見世物は終わった。


「驚いたかい?」


箱の扉を閉じながら老人が優しく話しかけてきた。


「うん。いまのは?」


ダレンは溜め息とともに頷いた。そしてドキドキする胸を押さえながら老人に問いかける。


「これは語り箱人形といって、物語を人形が演じてくれるんじゃ。人形といっても魔法で動く仕組みになっておるから本物のように見えたじゃろう?」

「うん!すっげーかっこよかった!」


ナルマも興奮を隠しきれない様子で頷く。でも不思議そうに「なんでうりものにしないの?」と首を傾げた。その言葉にダランも同意するように頷く。

こんなに素晴らしいのを滅多に客に見せないのも勿体ない。一番の目玉にすれば客ももっと集まるかもしれないのに、と二人は思った。


しかし老人は困った顔をして「これは一つでは意味がないんじゃ」と笑った。


「いみがないって?」


ダランはまたもや首を傾げた。


「これは神話を基にした語り箱じゃからあと3つ揃わないと売り物として完成しないんじゃよ」

「へー!こんなすごいのがあと3つもあるんだ!それはどこにあるの?」

「それがわからんのじゃ。わしもこれは預かっただけじゃからのう」


ナルマの質問に老人は長い髭を撫でながら答える。目は懐かしい過去を思い出すように優しく遠くを見つめていた。

ダランとナルマは老人を見た後互いに目を合わせる。どうやら自分達にはわからない事情があるのだということだけは幼い二人にもわかった。


「さて、時間をとらせてしまったのう。今日の記念に一つずつ置き人形をやろう」

「え!いいの?」

「ああ、いいとも。坊や達は人形には興味がないかもしれんが…」

「そんなことないよ!ここのにんぎょうはどれもきれいだし、かっこいいもん!」

「そーだよ!おれ、にんぎょうあそびなんてきょうみなかったけど、このみせみてかんがえかえたよ!」


プレゼントを包みながら眉を下げた老人の言葉に、二人は大声で否定する。

二人の様子に老人は嬉しそうに目じりを下げた。やはり自分の店の商品を褒められるのは嬉しかったらしい。


「お家に帰ってからあけるんじゃよ。これが二人の心の拠り所になるように魔法を掛けたから」


そういって二人の手元に小包を落とす。ダラン達はにっこり笑って老人にお礼を言い店を後にした。


「やっぱり王都ってすげえんだなあ!」


ナルマが包みを顔の近くまで持ち上げながら言った。

ダランもそれに同意を示す。初めての王都は、広場とはいえ不思議な店や魅力的な店ばかりだ。老人の優しさを思い出し「あの店に入ってよかったね」とダランは笑った。


そうして二人はしばらく出店を見て回っていたが、大きな鐘がカーンとなったのを合図に周りの子供と同じように宿泊場所まで帰ることにしたのだった。


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