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人物紹介
ダラン・ケイリー:主人公。今でいう小1。
ナルマ・シントライ:主人公のクラスメイト。町一番の貴族。
クロウスラー:王都でのダラン達の引率係。神の第十団所属。30代。
エマ:クロウスラーと同じ。20代前半。
「わ~!ほんとにひとがおおいや!」
受付前へと着いたダランは思わず声を上げる。
そこにはウィズナーのありとあらゆる町や村からやってきた子供達で溢れていた。
あちらこちらから子供の喋り声が聞こえてくる。遠くの地方から来た子供だろうか。知らない言語で喋っている子もいる。
「ダラン!うろうろしてるとまいごになるぞ!」
「な、ならないよ!ナルマってばいじわるいなー!」
「こらこら、喧嘩しないでよー?」
つい周りを見るのに夢中で立ち止まりかけたダランをナルマが呼ぶ。
意地悪だけど間違っていないナルマの台詞に、ダランは恥ずかしさと悔しさで思わずむっとした顔をしてしまう。そんな二人をエマは軽く注意し、クロウスラーはちらりと目線をやったが黙って前へと進んでいく。
受付はダラン達以外にも多くの参加者で大混雑していた。クロウスラーやエマと同じ服を着た団員のほかに、王都の官員や神官の姿も見られる。
それでも相手は年端もいかない子供ばかり。親と離れて不安で泣く子に、隣の子と喧嘩をする子。落ち着きなく動き回る子とそれぞれに大人は振り回されて忙しそうだ。
「うへー。今年も大盛況ね…。私テレポートの能力持ちでよかったわあ。ほんと…」
周りの様子を見ながら、エマはぐったりとしたように半笑いを浮かべる。
曰く、子供達の世話をすると王都の運営スタッフの人手が足りない為、4つの学園の生徒代表や団員、神官が毎年手伝いをしているのだそうだ。それはそれは地獄だそうで、エマ達若手はテレポート能力者のような子供の移動等で忙しいものは別だが、ほぼ強制的に運営の手伝いとして、測定会にきた子供達に振り回されるのだそうだ。
それを聞いたダランは、子供心ながらに大人って大変なんだなあと思った。
他人事のように思っているダランも自分も大人を振り回し疲れさせる子供側ではあるがダランはまだ幼くそこまで気付くことはない。
「あ、受付ですね?ようこそ測定会へ!」
列に並んだダランとナルマに列整理をしていた神官のスタッフが声を掛ける。
引率の為に一緒に受付まで来てくれたクロウスラーとエマは、一旦ダラン達を無事に王都へと送ったことを報告しないといけないらしく「受付はスタッフの指示をよく聞くように」とだけ言いすぐにどこかへ行ってしまった。
王都に来て初めての二人ぼっちに、ダランもナルマもどこか心細くなる。
よくよく列の周りを見てみれば、王都出身らしく堂々と友達と話している子や、明らかに能力覚醒しているような子がちらほらいる。
なんだか、二人は自分達がすごく田舎から来た取るに足らない存在に思えてしまった。
「きんちょうするなー」
思わずダランがそう呟く。
その言葉にナルマがじろりとダランを睨みつける。
「なんだよ~…ダランがきんちょうしてるのみてると、おれまできんちょうしてきたじゃんか!」
「えー!そんなのナルマのかってじゃんか!」
「ちぇっ、せっかくおうとであそべるとおもったのになあ」
勝手なことをいうナルマに思わずダランも非難の声を上げるが、本当はナルマの言う通りだと思っていた。
緊張を声に出すことで余計に緊張した気分になってしまう。ただでさえ、昨日まで思っていた王都の測定会と様子が違うということで落ち込んでいたのに、ナルマの落胆した呟きが二人をさらに鬱々とした気持ちにさせた。
「こんにちは。ようこそ測定会へ!」
「はい、喧嘩しないでねー!終わった子はこちらへ移動してくださーい」
「次の子どうぞー!」
そんな二人の様子など知らないとばかりに列は前に進んでいく。スタッフ達が慌ただしく受付や移動の指示を飛ばしている。そんな大人達と好きに暴れまわる周りの子供を眺めていると、いよいよ二人も列の一番前に流れ着いた。
「こちらの水晶に右手をかざしてください。…はい、ありがとうございます。ダラン・ケイリーさんに、ナルマ・シントライさんですね。はい、今日の宿泊はリリアの間になります。ほかの子もいるから仲良くしてくださいね」
「ありがとー」
「ありがとうお姉さん!」
受付のピンクの髪をした女性がダランとナルマににっこりと微笑みかける。
言われた通りに二人はテーブルに置かれた水晶に手を翳す。すると水晶の中にダランとナルマの名前がそれぞれ浮かび上がった。
それを物珍しそうに眺めていると、受付の女性は二人にリリアの花の絵が書かれた紙を渡してくれた。どうやらこれを持ってリリアの間へ移動すればよいらしい。
よく見ると、中央の奥にいた白百合の集団の近くでダラン達が貰った紙と同じ絵の旗や別の花の旗を振るスタッフがいる。
二人はとりあえず、リリアの旗を振るスタッフの元へ行くことにした。