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物語を読む諸君へ、子供たちの話す遊びについて説明をしておこう。

『なか遊び』とは、その言葉の示す通り、室内で遊ぶということだ。その為、なか遊びの場合は体を動かすことよりも、頭を動かすことがメインとなる。

なか遊びにおける学習の多くは、教室内でボードゲームをして戦術を磨くか、図書室で自分の知識を深めることになる。



これはこの町の子供に限らず、ウィズナー国の多くの教育方針である。

能力が目覚めれば自然と、戦術や知恵、体力を求められることが多い。能力が目覚めるのは貴族のみだが、平民や貧民も生活の中で戦闘を強いられることが多々ある。

それはこのウィズナー国に存在する生き物が関係してくるのだが、それはまた追々説明しよう。

とにもかくにも、そういった事情があることから、子供の頃から多くのことを学べというのがウィズナー国の教えであった。



「あ、そういえば…ナルマとダランは、つぎのおやすみ〝そくていかい″だよね?」


ダランの隣でご飯を食べていた平民の少女―メイリヤが、頬を真っ赤に染めてダランに話しかけた。

頬を染めている理由は、ダランに好意を抱いているから…ではなく、純粋に今日の昼ご飯が、メイリヤの好物のチャーチャー牛のカレーだからだろう。


鬼ごっこから一週間が経ったある日の昼ご飯。教室では子供たちが班のメンバーと楽しそうにお喋りをしつつご飯を頬張っていた。

ダランのクラスでは、昼は生徒が4つの班をつくりご飯を食べる決まりになっている。

黄緑色のカレールーを桃色に輝く唇の横につけた彼女は「いいなあ…おうとにいけるんだよね?」と首を傾げた。


「そうだよ。よくおぼえてたね?」


測定会のことを教師が話したのは一か月前のことだ。

そのことを測定会に関係のないメイリヤが覚えていた事実に、ダランは心底驚いたという顔でメイリヤに言った。

しかしメイリヤはダランの反応が不服だったのか、眉を顰めて牛乳を啜ってみせた。


「あたりまえだよ!そくていかいは、へいみんのあこがれだもん!」

「そーよ!ダランはせっかくきぞくなんだからもっとたのしみにしたらいいのに!」


メイリヤの前に座っていた貧民の少女―チャルも、メイリヤに賛同するようにスプーンを強く握った。


ウィズナー国の教えの象徴となるのが、先ほど少し話した国の最高機関であるウィズナー国に存在する能力発達のための学園だ。


ウィズナー国は世界の5分の一を占める大陸と多くの島を所有している世界最大の国家である。

その最高機関と呼ばれる学園は5つのみだ。

その5つに編入および入学できるかどうかを決める試験が〝測定会″である。


測定会に参加できるのは、貴族だけ。これは能力が覚醒するのが貴族のみという事実に基づく決まりだ。

能力発達の為の機関であるから当然ではあるのだが、この最高機関に入れば王都のお屋敷で働くことも夢ではないと昔から噂されていた。

田舎町で育った女子にとって、王都は華やかで美しいイメージなのだろう。実際に、たまに国家映像で流れる王都の様子は煌びやかだ。

だが、世界最大の大陸である為、田舎町のカントラストから王都は通常の移動手段では片道一か月以上かかる。それなのに費用は平民の三年分の生活費に匹敵するのだから堪らない。

平民どころか、特に力があるわけではないケイリー家のような貴族も、用がなければ足を踏み入れることがない王都だ。

メイリヤの憧れという言葉には、そんな王都に測定会の為とはいえ、無料で行くことのできるダラン達への羨望と嫉妬が込められていた。


人はいつだって平等ではない。測定会は貴族に生まれた子供にのみ与えられた義務という名のチャンスなのだから。


「おいしいものも、たくさんたべれるんだろうなあ。いいなあ…!」


昼ご飯を綺麗に平らげたマルクが、ぱんぱんに張ったお腹を擦りながら言った。

マルクは自分の分だけでは足りず、目の前に座るダランのデザートまでぺろりと食べていた。

もちろん、目の前で物欲しそうな顔をしていたマルクに、あまり食べたくなかったダランがデザートを譲ったのだ。

今日のデザートはウェペッリー産みかんシャーベットのウグル酢掛け。酸っぱいものに酸っぱいものを合わせた栄養価の高いデザートではあったが、子供には好き嫌いがわかれる食べ物だった。



「ああ、想像しただけでお腹が減るよ!」


彼の頭はいつだって食べ物で溢れている。今も噂にしか聞かない王都の名店の料理やお菓子で頭の中が埋め尽くされているのだろう。すでにたらふく食べたはずが、マルクのお腹はもう空腹を訴えていた。


「マルクは、すこしはたべることをやめたほうがいいわ。もうすでにからだじゅうパンパンで、いまにもバクハツしちゃいそうだもの」


横眼でマルクを見たチャルが、心底呆れたといった風に鼻を鳴らした。

がりがりに痩せたチャルから見れば、真ん丸に太ったマルクは違う生き物に見えるらしい。


「たしかに、マルクはいつパーン!ってふうせんみたいになってもおかしくないわ」


メイリヤも可笑しそうに笑った。

彼女が笑うと、ふわふわに広がった癖毛の端がダランの頬を撫でる。それが妙にくすぐったかったのと、マルクがパーン!と風船のように弾けた姿が面白くて、ダランはついくふふっと笑ってしまった。


「そうだ!おねえちゃんがおうとにはやせぐすりもあるっていってたわ。マルク、おみやげにたのんだほうがいいんじゃない?」

「それがいいね。マルク、さがしてくるね」

「や、やめてよチャル~!おみやげはおいしいおかしがいいよ!!」



チャルが嫌味たらしくマルクのお腹を指で突く。その言葉にダランは大きく頷いてみせる。確かにマルクはダイエットを決意したほうがいい。先ほどはつい可笑しくて笑ってしまったが、実際に弾けてしまっては大変だ。

ダランが本気にしたと思ったマルクは、チャルに慌てて首を振る。そして、ちゃっかりと希望を伝えた。



「はは!もちろんおかしをかってくるよ!とうさまがおこづかいをくれるっていってたからな」

「ほんとうに?」

「もっちろん!」


隣の班でご飯を食べていたナルマがそうマルクに伝える。

もちろん、ダランもお土産にはお菓子を買うつもりでいた。子供というのはいつだってお菓子が一番のご馳走なのだ。


ナルマの言葉に安心したマルクは「よかった~」といいつつ、お菓子への期待を膨らませてか、さらに大きくお腹を鳴らした。


「もう!マルクは、いっかいばくはつしちゃったほうがいいかもね!」


そんなマルクの様子に、チャルはもう一度ふんっと鼻を鳴らしてみせるのだった。




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