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第四話

ダラン・ケイリー:主人公。今でいう小1。

メイリア:ダランのクラスメイト。平民。



第四話


《初めての夏休み》


初めての測定会から、はや数ヶ月。季節はすっかり夏になっていた。

子供達はその日、皆朝からそわそわしていた。今日は終業式。

明日からはダラン達にとって初めての夏休みがやってくるのだ。


「ダランはなつやすみ、なにするの?」


帰り支度を終え、さあ帰ろうと席を立ち上がったダランは、隣に座っていたメイリアに声をかけられた。

その言葉に横を向くと、メイリアは質問の答えを待つように首をかしげたままダランを見つめている。夏になり、ピンクのリボンで二つに結った髪もメイリアの首の動きに合わせて元気に揺れていた。

話しかけられたダランは、とくになにも、とだけ言って教室の扉へ向かう。

まさかそんな反応がくるとは思わなかったメイリアは、そんなダランの様子に目を瞬かせると、鞄を背負いダランと並んで歩き出した。


「どうしたの?わたし、へんなこときいた?」

「ううん、へんじゃないよ」


メイリアの言葉にダランはゆっくり首を振る。


「…でも、ぼく、ほんとになつやすみなんにもよていないんだ」

「あら!りょこうは?ナルマはまいとし“ばかんす”にいくっていってたわ」


メイリアは大げさに驚いた後、そう言ってまたもや髪を揺らした。

しかしダランはまたもや小さく首を振ると、「それはむり」と唇を尖らせた。


「とうさまもかあさまもおしごとがあるから、あまりとおくにはいけないんだよ」

「そうなの?…じゃあ、おにいちゃんたちは?チャルはおねえちゃんとあそぶって」


メイリアは少し悩んだ後にそう答えた。

その言葉に、ダランは溜め息混じりに「しってるよ」と返す。

夏休みが近付いてから、チャルは毎日のように女の子達に大声で夏休みの計画を話していたのだ。

チャルだけではない。ナルマもマルクもスティも、目の前のメイリアだって夏休みの計画を楽しげに話していた。

夏休みの明確な計画がないのはクラスのなかでダランだけだ。


二人並んで学校の校門を出て歩きながら、メイリアは少し同情するような目でダランを見つめた。

ダランはその視線から逃げるように目をそらした後、わざとらしく話を変えた。


「そういえば、チャルのおねえさんってば、あかちゃんうまれたんだってね!」

「そうよ!おんなのこ!ダランはもうみた?」

「ううん、みてない。メイリアは?」

「わたしはきのうみたよ」


どうだった?と質問したダランにメイリアは言いにくそうな顔をした後、なんかしわくちゃでこわかったと笑った。

絵本で見るような赤ん坊を想像していたメイリアは実際に赤ん坊を見て、イメージと違ったので驚いたようだ。しかし、生まれたばかりの赤ん坊の印象としては妥当なところだろう。


「へー?ぼくもはやくみたいなあ」

「…そうだ!なつやすみにあいにいけば?」


適当な相槌を打っていたダランは、うっかりメイリアを羨ましがる言葉を口にしてしまった。

そんなダランの言葉を受け、メイリアが両手をぱちんと合わせる。

そして声高らかに彼女曰く、名案を口にした。

幸いなことにチャルの予定は耳たこなくらい皆が知っているのだ。二週目は何も予定がないことをメイリアもダランも知っていた。


「えー?きゅうにいったらいやがられない?」


夏休みになってもあのチャルのかな切り声を聞きたくないダランが嫌そうに顔をしかめる。

そして当てさわりのない断り文句を延べてみたが、メイリアによって一蹴された。


「そんなのきにするのダランたちくらいよ。わたしたちなんてしょっちゅういってるわ」

「ええー?」


尚も嫌そうにするダランだが、メイリアは気付かないのか勝手に予定を組み立てていく。


「きまり!わたしもそこやることなくてひまだったからみんなであそびましょ~!」

「メイリア…」


うふふ、とピンクのほっぺに笑窪を浮かべ笑うメイリアは贔屓目なしに可愛らしいものだったが、ダランはげんなりした様子でメイリアを見つめた。

言い出したメイリアが今さらダランの話を聞くことがないことはダランもよく知っていた。

そんなダランの様子に気付いていたのか、いなかったのか。

自宅にたどり着いたメイリアは、そのまま歩いていくダランに向かって再度「にしゅうめの“みずのひ”の10じにふんすいまえよ~!」とメイリアにしては珍しい大声で約束を伝えると、さっさと家に入っていった。


その声が聞こえたのか、ダランの家の前にいた庭師がにっこり笑って迎えの言葉とともに「ダランぼっちゃん、デートのお約束で?」と話し掛けてくる。


「ちがうよ、チャルのとこにあそびにいくやくそくしただけ!」


ダランは口を尖らせると、庭師に対して否定の言葉を伝える。

貧民らしい黒々とした髪を持った庭師は、ばらばらに生えた顎髭を擦るように手をやる。そして何かを思い出すように斜め上を見上げて言った。


「…ああ!あそこは上の子が赤ん坊を産んだんですってね」


どうやらチャルが誰かを思い出していたらしい。子供の数が少ない街とはいえ、全ての子供の名前を覚えている大人は少ない。

ダランは庭師の台詞に一つ頷くと一緒に玄関へと歩きながら、話を続けた。


「そう、あかちゃんをみにいくの」

「そいつはたのしみですね!…さあぼっちゃん。スワフキーさんがお昼ご飯を用意してますよ」


ダランの話に笑顔で頷いていた庭師は、そのままさっ玄関の扉を開け、玄関で靴を脱いでいたダランに向かい家政婦長兼料理人からの伝言を伝える。



「そうだった!おなかへってたんだった!」


いつもは学校で昼食をとるのだが、今日は終業式だったので午前中で終わりであった。

その為、昼食をまだ食べていなかったダランはお腹がぺこぺこだった。

メイリアと話していた時は夏休みのことで頭が一杯になっていたが、昼ごはんの話題を聞いたダランのお腹は素直に空腹を訴える。

ダランは、手洗いうがいを済ませると、急いで香ばしいパンの匂いのするリビングへと向かった。






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