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ダラン・ケイリー:主人公。今でいう小1。
ナルマ・シントライ:主人公のクラスメイト。町一番の貴族。
チャル:同級生の女の子。貧民。少し神経質な性格。
メイリア:同級生の女の子。平民。胸上くらいの癖っ毛。
スティ:同級生の男の子。平民。学年一頭が良い。学級委員長。
朝のちょっとした騒ぎの後、つまり先生が朝礼を終了させた後、ダランはナルマの席まで行くと人形屋でどんな人形を貰ったかを尋ねた。
席に座っていたナルマは一瞬、きょとんとした顔でナルマを見上げた。しかしすぐにダランの尋ね物がわかったのか、わざわざ大人ぶって肩を上下に動かした後に答えてみせた。
「ああ、あれ?おれはアルニャータだったぜ」
「へー!アルニャータか~!かっこいいなあ」
素直にそう感嘆したダランにナルマは、今度は顔を左右に振り溜め息交じりに不満を口にする。
「でもやっぱ、にんぎょうやでみたやつにはかっこよさはまけるぜ」
「そうなの?」
ダランが首を傾げると、ナルマはダランの顔を見て大げさに頷いた。
その顔にはでかでかと不満と書かれている。どうやら、人形劇で見たような大層立派な人形を貰えると過剰に期待していたようだ。
そのことに気付いたダランは、自分も同い年であるにも関わらず、ナルマは本当に子供だなあと思ったがそんなことはおくびにも出さず、何もわからない顔をしながら話を続けた。
「でもやっぱりアルニャータってかっこいいとおもうんだけど…」
「うーん…アルニャータはかっこいいけどよ…。おれのもらったのはハデさもねーし、ぜんぜんアルニャータっぽくねーもん!」
手を机につき体を支えるように椅子全体をぶらつかせながらナルマは言う。がったん、がったんと音を立てて前後に倒れる椅子は、長年様々な子供達により乱雑に扱われたせいかすでに足先がぼろぼろだ。
「なになに?なんのはなし?」
ダランとナルマが二人で話していると、チャルが割って入ってきた。その後ろにはチャルに手を引かれたメイリアも立っている。
しかし、朝急にチャルに怒られたナルマは、そんなチャルに顔を顰めると思いっきり舌を出してみせた。
普段はそこまで意地悪な態度は取らないため、チャルも思わず面食らった表情を浮かべたが、一瞬で顔を真っ赤にすると全身を震わせ手のひらを握り絞めた。
「べー!ひみつー!」
「なによー!ナルマのケチ!」
「これはおれとダランのひみつなんだよ!なー!ダラン?」
地団駄を踏まんばかりの勢いで騒ぐチャルの様子を見て、ナルマは嬉しそうにダランに同意を求める。
急に自分に話の矛先が向いたダランは戸惑いつつも、確かにこの話を多くに話すつもりは無かった為思わず同意してしまう。
「え…。う、うーん。そうだね」
ダランが同意したことでメイリアは「あっ」と不安そうな顔を浮かべたが時すでに遅し。
チャルは目にわずかに涙を浮かべて茶髪のお下げも怒りでゆらゆらと揺れているように感じる。
「えー!ダランまでいじわる!いじわるなおとこはもてないのよ!」
「なにいってんだよ。すきじゃねーやつにもてたくなんてねーよ!」
「ナルマ、それはチャルにしつれいだよ…」
ダランの前の席に座っていたスティが肩を落とすと、溜め息まじりにそう言った。
その言葉にナルマは驚いた顔をし、チャルは怒り心頭といった様子で地団駄を踏んだ。
「へ?」
「もーー!!ナランなんてしらない!メイリアもいこっ!」
「え?わたしも?もーチャルちゃんまってよぉ~」
そして訳も分からず連れてこられたメイリアの手を引いて、どすどすと大きな足音を立てながら教室を後にした。
それを見ながら、スティはまた溜め息をつく。
「あーあ、チャルはしばらくあのままだね…」
「なんだあ?へんなやつ!」
「ナルマ…」
一方のナルマは、いまだにチャルが怒った理由がわからないといった様子で首を傾げている。そんなナルマに思わずダランも溜め息をつくのだった。
しかし、なんとかは三歩歩けばというもので、チャルは午後になるとすっかり機嫌がよくなっていた。
「ナルマ、さっきはごめんなさいね。わたしがおとなげなかったわ!」
「あ?なんだー?チャルってば。べつにいいけどよ…」
二人の様子を隣で見ていたダランは、思わず黒板台の前にいたメイリアのもとへいくと驚きをそのままに尋ねた。
「…メイリア、チャルってばどうしたの?」
「ああ、あれ?アスートさんが“おしとやかなこ”がすきってきいてからずっと“ああ”なの」
メイリアは困ったように頬に右手を当てると、ほふ…と軽く息をついてそう答えた。
アスートというのは三学年になる村一番のイケメンで、平民のなかでは一番の有望株だと噂されている。
大概の女子はアスートのことが好きでチャルも例外ではなかったらしい。
「へえ。それで“ああ”なんだ」
なるほど、とダランが納得すると、メイリアは大きく頷いてみせる。その顔は困った、とありありと書いており、ダランは疑問に思ったが、メイリアの言葉ですぐに困っているのはどうでもいい理由だと分かった。
「そうなの。いつもとちがいすぎて、わらいをこらえるのがたいへんだわ…」
「メイリアもけっこうなせいかくだよね」
黒板台の掃除をしていたスティは苦笑交じりにそう呟く。
それを聞いたメイリアは、ふふっと笑うと少し大人びた顔でスティに言った。
「じゃないと、チャルとずっといっしょにはいれないわ」
「わー、おんなのこってこわいや!」
わざとらしい身震いをしてみせるスティと、それをみてさらに笑うメイリアを見ながら、ダランは皆楽しそうだなあと、場違いなことを考えていた。
こうしてダランとナルマの初めての測定会は幕を閉じたのだった。