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人物紹介

ダラン・ケイリー:主人公。今でいう小1。

ナルマ・シントライ:主人公のクラスメイト。町一番の貴族。

ウィル・ケイリー:主人公の父。町役場の職員。スーパーロングの薄い蒼のグラデーションヘア。

マイヤー・ケイリー:主人公の母。教会で働いている。金色の髪をお団子にしている。


村に戻ったダランとナルマは、行きと同じように教会で待っていた両親に連れられて帰路についた。

エマは軽く二人とその両親、そして神父のプーエルに挨拶をした後、またすぐにヘイスターに乗って王都へと帰っていった。

シントライ一家と別れた後、ダランはウィルとマイヤーに初めての王都の感想を存分に聞かせた。ウィルとマイヤーも楽しそうにダランの話に耳を傾けている。


「ひろばからはでられなかったけど、いろんなおみせをみたんだよ!」


両親と繋いだ手をぶらつかせながらダランはそう言いながらウィルを見上げた。

ウィルはそんなダランの言葉に大きく頷きながら質問を投げかける。


「そうかー。お店で何か買ったのかい?」

「うん!みんなのおみやげをかったよ。…チョコルーツとグミイチゴのクッキー」

「あらあら、じぶんのおみやげはかわなかったの?」


口元に小さな人差し指を当て「まだ皆には内緒だよ」と声を潜ませるように教えるダランに、マイヤーを堪え切れずころころと笑いながらそう指摘する。

折角王都へと行ったのに、友人へのお土産しか買わなかったのかと聞かれたダランは、その言葉に頷く。


「うん。でもにんぎょうやさんのおじいさんがプレゼントをくれたんだよ」


王都の出店で一番の思い出は、やはり人形売りのおじさんが見せてくれたあの人形劇だった。

しかし、何となくダランはあの人形劇のことだけは両親に黙っておくことにした。あの素晴らしい物語の内容を上手に両親に伝える自信がなかったことも理由の一つだが、ただ漠然と内緒にしておいたほうが良いのではないかと思ったのだ。

ダランの話を聞いて、ウィルは興味深そうに片眉を上げ、プレゼントの中身を尋ねた。


「へえ。何を貰ったんだい?」

「わかんない。いえであけてっておじいさんがいっていたから、まだみてないの」


ウィルの質問に唇を尖らせ答えながら、ダランは鞄の中にある小さな小包を思い浮かべる。

ケイリー家の料理長がよく作ってくれるおむすび位の重さと大きさの小包には一体どんな人形が入っているのか。


「なら早く帰って開けてみないとなあ」

「うん!だからね、ぼく、はやくかえりたかったんだよ!」

「素敵なおじいさんねぇ。よかったわね、ダラン」

「ふふふ、うん!」


本当に楽しみだと全身で語るダランに、ウィルとマイリーは顔を見合わせ、笑みを浮かべる。

ダランは逸る気持ちを抑えきれないというように、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら家の扉を開けた。


その日の夜、ウィルとマイヤーに「折角だからまずは一人で開けてみたら」と言われたダランは一人、ベッドの上で小包を見つめていた。その瞳はきらきらと期待に満ちた色をしている。


「ああ、きんちょうするなあ…!」


ダランは思わずため息を吐いて小包を胸に抱きしめる。

目を閉じて再度、王都での夢物語を思い出す。そして一つ深呼吸をすると、そっと右手で小包に巻かれた苔色のリボンを外し、土色をした包み紙を開いた。


「わぁあ…!」


ダランは思わず感嘆を上げる。包み紙を開くと、そこには透明なガラス箱があった。中には小さな人形が入っている。小さな翼を持つその人形は幼いダランも良く知っている神話の一つに登場する神の使い魔の人形だった。闇属性を持つ黒の片翼と、光属性の金の片翼を持つその使い魔は名前をエドウォンと言った。過去、ウィズナー国が出来るよりも前、この世界が出来た時に唯一存在した闇と光の相反する二つの属性を持ったと言われているのがエドウォンだ。

神話上ではエドウォンは神からとても愛されたが、永遠の命を持つ存在ではなかった為、ある時、ほかの神々の戦に巻き込まれ死んでしまったとされる。

エドウォンが亡くなり、闇精霊と光精霊の仲は悪くなり、以降優れた貴族達でも闇属性と光属性の二属性を使える者はいないのだ。


そんな使い魔の人形を貰えると思っていなかったダランは驚きと嬉しさで思わずベッドの上から飛び降り、両手でガラス箱を持ち上げそのままくるくると部屋中を飛び跳ね回った。


エドウォンは神話の絵本で見た通りの美しい白髪を伸ばし、顔は目を閉じたまま微笑んでいた。

ガラス箱は部屋を包み込む月夜の光に照らされ、きらきらと輝いていた。ダランは当初、人形をガラス箱から取り出そうとガラス箱の開け方を探した。

しかし、どうやらこの箱と人形は離すことは出来ないようで、人形の取り出し口はどこにもなかった。

その為ダランは、おやすみのキスをしにきた両親に注意されるまで窓辺の月夜にずっとガラス箱を照らしながらその輝きにうっとりと目を細めて見ていたのだった。


(こんなに素敵な贈り物をくれるなんて…!)


ダランは人形売りのおじいさんに心からの感謝を送りたい気持ちでいっぱいになった。

そこでダランは、おじいさんへの感謝の気持ちと嬉しさを伝えるように毎夜ガラス箱に自分が親にされるように“おやすみのキス”をして寝るようになったのだった。




次の日、ダランが学校へ行くと、王都での感想を聞こうとメイリヤ達が待っていましたと言わんばかりに話しかけてきた。


「ダラン!おそいよ!はやくはなしききたかったのに!」

「ご、ごめんよ。チャル…おはよう。きょうは、はやいんだね」


あわやダランにぶつかるのという勢いで話しかけてきたのはチャルだ。

思わずダランが後退りながら朝の挨拶をすれば、チャルはいつものように鼻を大きく鳴らして朝の挨拶もそこそこにダランに文句をぶつけた。

チャルの言葉を皮切りに、ほかの子供達も次々にダランに話しかける。どうやらダランとナルマが来るのを楽しみに待っていたのに二人とも遅かったからやきもきしていたらしい。

ダランが目だけで教室を見渡すが、そこにはまだナルマの姿は見えなかった。


「もう!あたりまえじゃない!すごくたのしみだったんだから!」

「そうだよ~。わたしもはやくおはなしききたい!」

「ぼくも!…でもさきにおかしがたべたいな…」

「…マルク、ぼくはきみのしょうらいがしんぱいだよ」


チャルが興奮して話しかけているのに、視線を自分に向けずに教室をきょろきょろと見渡すダラン。そんなダランの態度に、チャルはさらにやきもきしてしまい、思わず地団駄を踏んだ。

それを自分の席で見ていたスティは、やれやれというように首を振った。スティは少し大人ぶった仕草をよくしている。

そしてチャルやメイリアに囲まれて、目を白黒とさせていたダランを助けるべく声を掛けてくれた。


「みんな、きゅうにいっぱいきいてもこたえられないよ」

「…なによ!スティもはなしがききたいっていってたじゃない!」

「うん、そうだけど。…でももうせんせいきちゃうよ?」


スティに注意を受けたチャルは顔を真っ赤にして、スティに食って掛かる。負けん気の強いチャルは自分が悪い時でも、素直に改めることが出来ない時がある。特にスティをライバルのように思っており、こうしてスティに何か言われるたびに反論したがるのだ。

そこにやっとナルマが現れた。


「おーおはよー!…ってみんなあつまってどうしたんだ?

「もう!!ナルマもおそいよ!」

「なんだよ、チャル。おれはいつもこのじかんだぞ?」

「そーだけど!!…って、もー!せんせいきちゃったじゃない!」


ナルマは、急に挨拶もなしに怒り出したチャルに怪訝そうな顔を向ける。

確かに普段からナルマは遅刻ギリギリの時間に登校しており、今日もいつも通り時間ギリギリに教室にやってきただけだった。

だが、チャル達は普段と違い、王都の様子や感想をいち早く聞きたいと休みの日の夜から楽しみにしていたのだ。

そんな待ちわびた気持ちもあり、チャルがさらにナルマに言い募ろうとした時、丁度始業のチャイムが鳴り先生が教室にやってきてしまった。

その為、チャルは悔しそうに鼻を鳴らすと、どすどすと足音が聞こえそうな歩き方で自分の席へと戻っていった。


「……なんだあ?チャルのやつ。へんなの」

「…ナルマ。きみのしょうらいもぼくはふあんだよ…はあ」


ナルマは、そんなチャルの様子に訳が分からないといったように眉を寄せると首を傾げた。

スティはまたもや、やれやれといったように首を振り、そんな周りの様子を見てダランは子供ながらに皆大変だなあ…と思うのだった。


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