9、再会
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今日は父さんにつれられて城へ来ている。
用事っていうのは何か王様か誰か、エライ人にお会いすることだとか。
無駄にはならないと言われてもなぁ…やっぱし俺までつれて来る意味が分かんない。
「なぁ、あんちゃん」
アルが横で俺のソデを引っ張る。
タイクツだからってオマケにつれて来たのはイイけど、さっきからあんちゃんあんちゃんとうるさい。
つれて来たものの、こいつこそついて来た意味が分からない。つれて来なけりゃ良かったか。
「うるさいな、俺はお前のあんちゃんじゃないって言ってんだろ。いつ弟になったんだ。他に呼び方はねぇのかよ」
「じゃあ…お前でエエ?」
「極端なヤツだな」
「なぁ、お前。何で俺まで来なアカンのん?用事ないやん」
「ワケはないさ。何となくだ」
…と、廊下の向こうから来るヤツが気になった。
あれ?どこかで見た顔だな。あ!あのジェンスに似てる。
こんなに似たヤツがいてたまるかってんだ。毛は黒いけど、あの顔は間違いないぞ。
「あのバカだ!何でこんな所にいやがんだ」
「来い」
いてっ!
俺が大声でバカって言うと、父さんにいきなり腕を引っつかまれてそこからジェンスらしきヤツの反対っ側の廊下の端まで引っ張られた。
「ナニ??」
「何、ではない。お前は何ということを口走るのだ。あのおかたは王子ジェラルド様であらせられるのだぞ」
「王子?あいつ、この前、バングレさんの店で会った、食い逃げしようとしてたカネも知らないって言うバカなんだよ」
と、父さんに説明しながらチラッとよそ見してると、今度はあっちからジェンスらしきヤツが手招きしてるのが見えた。
俺に来いってことか。
俺が自分の顔を指差すと、ジェンスらしきヤツは大きくうなずいて、もう一度手招きした。
「呼んでるから離して」
父さんにそう言うと難しい顔で俺の腕をつかんでいる手を離してくれた。
俺が近づくと、そいつは廊下を曲がった所の物の陰へ俺を呼んだ。
俺がそばまで行くと、そいつはニッコリと笑った。
「お前、ジェンスだろ?こんなとこで何してんだ?それにその毛は何だよ。白髪じゃなかったっけ」
「やあ、クェトル。こんにちは。僕の髪かい?これはカツラだよ。それに白髪じゃなくて銀髪って言ってほしいなぁ」
どっちだって同じじゃないか、と思うんだけど、ジェンスはこだわってるみたいだ。
「あのね、僕はね実は、王子なんだよ。あの時は隠して悪かったね。そこでだよ、君にはお願い事があるんだ。僕が街へ出歩いていることは誰にも言わないでほしいんだ。君の父上にもだよ。約束してくれるかな?」
こいつ、内緒で街へ出てやがったのか。何だかズレたヤツだと思ってりゃ、王子だったとはな。
「ああ。べつにイイけど」
「ありがとう。恩に着るよ。いやぁ、君がディベテットさんのご子息だったとはねぇ。広いようで狭いものだね。僕のほうこそ驚いたよ」
「何だ、父さんを知ってたのか?」
「知ってるも何も、僕の武芸の師範だよ。黒騎士だけど特別に王家の指南役を任されてらっしゃるんだよ。いつも厳しい先生なんだよ」
肩をすくめて白くて女みたいな顔で笑う。
武芸なんてまったく似合わないヤツだ。俺は吹き出しそうになるのにたえる。
「お前が武芸って、いったい何すんだよ。剣術でもするのかよ」
「僕は武人じゃないから剣は持たないよ。身体を鍛えるために弓術をたしなんでいるだけだよ。これでも弓術には自信があるんだ」
それも想像つかないな、こいつに弓なんて引けるんだろうか。
それより、父さんが王子に武芸を教えてるなんて知らなかった。しかも、白騎士とは違って黒騎士は平民なのに、王家なんかに関わっているなんてな。ちょっと驚いた。
…でも待てよ、こいつ、何で俺の父さんって分かったんだ?俺から言った覚えはないぞ。
「ちょっと待て。俺、自分の父さんだって言ったか?何で分かったんだ」
「見れば分かるよ。あ、そうそう。お城を案内しようか」
ジェンスは意味ありげに笑って、それからスタスタと父さんの所へ歩き出した。