6、父と子 1
父さんは服の襟元をゆるめて食卓のイスへ座った。俺もその真向かいのイスを引いて座る。
目の前のテーブルの上にさっきの剣が置いてある。その向こうに父さんが見える。厳しい顔をしていて、機嫌がイイのか怒ってるのか、俺には分からない。
「父さん、あさって、俺もお城へ行くの?」
「不服か」
「ううん、不服じゃないけど。俺は何のために行くのかなって思って。ねぇ、どうして?」
「無駄にはならんだろう。それだけだ」
「うん」
何だかワケが分からないけど、父さんにはイヤって言えない。
じっちゃんが戻ってきた。
「はい、茶だ。そうそう、あさっては何しに登城するんだい。こいつもつれてくんだろ」
「つれて行きます」
お城へはついて行ったことがないけど、父さんについて行って面白かったことはない。俺にすりゃ何だかタイクツなことばかしだ。
しかもお城なんて、とびっきり礼儀がうるさそうでヤだな。
それに、やっぱどう考えてもタイクツなのはヤだなぁ……あっ、アルのヤツをつれて行きゃタイクツがしのげるかも。でも、父さんがハイって言ってくれるかな。
「父さん」
「何だ」
「あのね、お城へ行く時に友だち一人つれて行ってもイイ?あ、そいつ、下品なヤツとかじゃないから。移民街の代書屋の坊ちゃんなんだ。ねぇ、イイでしょ?」
父さんは湯飲みをテーブルへ置いた。叱られるかな。
「遊びに行くのではないぞ」
「うん。おとなしくさせるよ。っつか、俺も賢くしてるからさぁ」
父さんはテーブルへ置いた湯飲みをもう一度持ってゆっくりと飲んだ。
時間がスゴく長く感じられた。
「分かった。好きにしろ。その代わり、二人とも言いつけを守るんだぞ」
「うん!分かった。父さん、ありがとう」
さっそく明日、アルに言わなきゃなんないな。
「さあ、もう寝ろ」
「早いなぁ。父さんは寝ないの?」
「父さんは用事がある」
「うん。でも、俺ももうちょっと起きてるから」
「あ、そうそう」
じっちゃんが言葉を挟んだ。
「風呂も焚いたから、たまには水入らずでお前ら親子で入っちゃどうだ。水を入れなけりゃあ熱くて入れんが」
じっちゃんはそれだけ言って一人で笑いながらまた台所へ戻っていった。
風呂か。俺はそっと父さんの顔色を窺う。
父さんも俺のほうを見た。
「一緒に来るか」
父さんの言葉に俺は何も言わずにうなずき返した。
父さんはサーベルを持って、つっと立ち上がった。