5、団らん
……………
「へぇ!変な子だなぁ。住んでるとこはヒミツってさ。そういうのって、もののけだったりするんだぞ~」
じっちゃんが俺の顔を指差して言った。
俺は次に言いたいことがあって噛む途中の口の中のメシを急いで無理やりに飲み込む。でも、じっちゃん、今日は何だかメシが硬いんだけど……。
「そうだよ、半分当たってるかも。あのね、前に広場で俺が気になって追いかけてった幽霊みたいなヤツがいたろ?そいつだったんだよ、食い逃げのヤツが」
「はははっ、そりゃあエラく実体じみた幽霊もあったもんだな」
じっちゃんは笑いながら煮物に箸をつける。ちょっと今日の煮物は旨い、っつかマシだ。
「そうだよ。それがね、服も毛も肌も真っ白で、上品で気味悪いくらいキレイな顔なんだよ。何つーか、この世のものとは思えないっていうのかな。それよりじっちゃん、メシ硬いよ」
「スマンな。今日は水加減を間違っちまってな。ガマンして食いねぇ」
「うん…」
仕方なく硬いメシをまた噛む。スゴいぞ、このメシ粒。箸からコロコロ落ちるよ…。コゲて真っ黒なのもあるし。
何とか全部平らげて箸を置く。
「ごちそうさま」
「あ、そうそう、それと言い忘れてた。昨日、夜中に帰ってきてた父ちゃんからお前さんに伝言があったんだ。あさって、お城の用事について来な、って言ってたよ」
「え? 父さん、帰ってたの」
「おう、そうだよ。お前さんは夢ん中だった時刻にさ。それで朝早くに出かけたよ。今日はお前さんが寝るか寝ないかのころに帰ってこれるんじゃないかな」
じっちゃんは食器をかたしながら言った。
そうだなぁ、最近、父さんに会えてない。いつも忙しくて家へ帰ってこないからだ。帰ってきても夜遅くだったり、家にいても書斎にこもって仕事をしてて、俺なんて寄りつけない。
忙しそうだから遊んでほしいとは言わないけど、父さんとゆっくり話したいことも話せなくて、ちょっと寂しい。
父さんは帰ってこないし、母さんは死んでしまってるし、兄ちゃんがいたけど俺より九歳も歳上で中央帝国へ行っちゃってるから、俺の家族はじっちゃんだけみたいなもんだ。
そうだ、俺のヒザの上に丸まってる黒いのもいたか!
「お前を忘れてたよ」
俺は目を細めてヒザの上のサンを見た。目が合うとサンは「にゃあ」と言って同じように目を糸みたいに細くした。
表戸の開く音がした。
「父ちゃんが帰ってきたみたいだよ」
俺はじっちゃんの言葉にうなずいて玄関に通じる戸を開けた。
そこには、いつもの黒い軍服を着た父さんがいた。キレイに整えた髪の香油のにおいがする。
「父さん、おかえり」
「ああ。ただいま」
そう応えながら、佩いているサーベルを外している。立派な剣だ。
「まだ起きていたのか」
「まだ夕方だよ。いくら俺が子どもでも、まだ寝ないよ」
「そうか」
父さんは上がり口に座り、サーベルを横に置いてブーツを脱いでいる。
「おかえり。ずいぶん早かったじゃねぇか」
「予定より早く済みましてね」
「そうかい。メシはどうした?」
「済んでいます。父上、茶を一杯いただけませんか」
「ん?茶か。分かった、待ってな。でもな、その、家ん中で敬語で話すのはやめてくれって言ってんだろ。他人行儀で気持ちが悪いぞ。ワシはお前をそんな子に育てた覚えはない。どうしてお前はそんなにカタブツなんだ」
「悪いことですか」
「うん、悪いと言えば悪いし、イイと言えないこともないなぁ……あ~、もうイイよ!お前の好きにしな」
じっちゃんが自慢のフサフサの頭をくしゃくしゃかきながら奥へと引っ込んだ。
父さんとじっちゃんは親子だけど、顔はともかく性格はぜんぜん似てない。
じっちゃんは陽気で言うこともやることも若いから歳よりも若く見える。けど、逆に父さんは落ち着いてて厳しい感じだからか歳よりも上に見える。
それに、じっちゃんと父さんは歳も十七しか離れてないから、二人は兄弟みたいだ。