4、変なヤツ
そいつをつかんだまま路地の出口まで一気に出る。素直に俺に従っている。
「おい、お前!いったい何なんだ?どこのヤツだ。あの人、怒らせちゃあ怖いんだぞ。それに、何で食い逃げなんてすんだよ」
「クイニゲ?何だい、それは」
「まだシラをきるつもりかよ」
「ただ僕は食事をしただけなんだけど、街は物騒なんだね」
「ブッソーも何も、物を食ったのならカネを払うのが世の常識だろうが」
バングレさんと同じ口調になってしまって、ちょっとおかしかった。
「さっきのかたも言っていたけど、カネって何だい?」
「馬鹿!いい加減にしろよ。からかってやがんのか?カネはカネだよ。物を買う時なんかに物と換えるヤツだよ。丸くて平たい金物でできた」
俺はポケットからさっきの残りのカネの一枚を出して自分の手の平に乗せて見せた。
「へぇ、そうなんだ。僕、初めて見たよ。話でしか知らなかったけど分かったよ、市井では食事をしてもカネという物が要るんだね」
「…お前、どういう生活してんだよ」
改めてそいつを見る。
男か女か判らないけど、僕って言ってるから、たぶん男なんだろう。
歳は俺より上らしくて、背は俺より頭一つ分近く高い。
広場で見た時みたいに真っ白の服を着ている。服や顔に汚れ一つない。
人形屋の一番イイところに飾られてる高級な人形みたいに顔も服も整っている。
襟元には宝石のついた金の飾りがある。指輪も二つほどしている。
「それはニセモノなのか?」
俺が飾りを指差して言うと、そいつはまばたきして不思議そうに眉を上げた。
「ニセモノ?偽の物、ということかい?それはどんな物なのか僕にはよく分からないけど、偽の物じゃないとするならこれは反対の、本物ということになるのかな。でも、比べる対象がない場合、偽の物が本物となることも有り得るのかも知れないけどね」
言ってる意味が分からない!
「カネがないっつーなら、ソレで払やぁ食い逃げになんないだろ。お前、変なヤツだなぁ、バッカじゃねーの。で、どこに住んでんだよ。言えよ」
「それはヒミツだよ」
そいつは目を細めてニッコリ笑った。
馬鹿、ヒミツ、じゃねぇよ。
「じゃあ、名前は?名前くらいは言えるだろ」
「僕の名前はジェンス、っていうんだよ。君は何ていう名前なんだい?」
「クェトルだ。何歳だよ、お前」
「十四だよ。君はいくつかな」
「十歳」
「うん。これから仲良くしてね。じゃあ、また会った時はよろしくね」
何をよろしくだ?こんなアヤシイ奴、もう会いたくないと思った。