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第62.5話 その時、あの人は



 意識を取り戻して最初に目にしたのは、自分の周囲を取り囲んだ多重障壁だった。

 一目見ただけでそれが並外れた強度を誇っていることが理解できる。

 そしてそれを構築している魔力が、愛しき想い人のモノであることも。

 障壁強度の強さは想いの強さと言っても過言ではない。

 まるで母の胸に抱かれているかのような安心感、そして同時にえも言えぬ充足感に包まれる。

 くんくん、すんすん。


「にゃふふ、幸せニャー」


 思わず口元が緩む。

 意識を失う直前の事を思い返せば緩みっぱなしと言ってもいいだろう。


 彼女から提案された突然のデート。

 一緒に出掛けられるだけで十分だというのに、さらにはサプライズプレゼントまで。

 あまりに価値の高い代物に一度は受け取りは拒否してしまったが、もう絶対に手放せない。

 そして────


「にゃふふふふふっ」


 左手の薬指に燦然と輝く指輪。

 夢ではなく、幻でもない。

 確かにそこに存在している。

 嗚呼、もう幸せ過ぎる。

 まさに生涯の絶頂であった。


 その後、昂揚したまま魔法を放ち、魔力切れを起こしてしまったが、想い人の胸に抱き止められて意識を失うという得難き経験ができた上に、彼女が生み出した障壁に包まれることもできた。

 共に過ごせる時間を失ったが結果的には悪くないだろう。


「さて、アイナ様はどこかニャ?」


 彼女の姿を求めて視線を巡らせる。

 さすがに意識のない自分を放置して帰ったとは考えたくないが、それはそれでありだと考える自分がいるのも事実。

 いやはや我ながら度し難い。

 でも彼女に魅入られたからには仕方がない。


「もう、アイナ様は罪作りなのニャー」


 だが次の瞬間、私は認めがたい現実に凍り付いた。


「…………またニャ、また増えてるのニャ」


 視界に捉えた想い人。

 だがそれ以上に存在を主張する邪魔者達。

 彼女の手を引く天使のような女と白い幼女。

 ギリッと思わず奥歯を噛み締める。


 落ち着け、落ち着け、落ち着け。

 納得はできないが受け入れろ。

 彼女風に言えば、フラグを立てること自体は珍しいことではない。

 自覚の有無に関わらず彼女の言動は、いや存在は他者を魅了してしまう。

 現に自分自身がそうなのだから間違いようがなかった。

 疾うの昔に諦めた事とは言え、やはり独占欲から来る不快感はどれだけ時間が経過しても押し殺せない。

 本当に罪作りな人だ。


 ただ邪魔者が増えることは残念ではあるが、同時に彼女の最も近しい存在という地位は相対的に価値を増し、相応の優越感を与えてくれる。

 彼女の寵愛を最も受けているの自惚れではなく、厳然たる事実として紛れもなく自分なのだと。


「はぁ……仕方ないのニャ」


 仕方がない事だと自分に言い聞かせる。

 ならば次に自分がやるべき事は何か?

 一つしかないだろう。

 そう、彼女の隣を占めることだ。

 誰にも譲るつもりはない。


「待つニャ────きゃっ!?」


 彼女の下へ向かおうとして、眼前に存在していた障壁に顔面を強かぶつけてしまう。

 視野狭窄とはまさにこのこと。

 これではいけない。

 しっかりしろ、ディアーナ。

 自分を叱責し、気を取り直したところで私は衝撃の事実に気付いてしまう。

 嫌な汗が全身から噴き出した。


「あれ? 出られないのニャ」


 強固な障壁が強固すぎた。

 物理破壊、不可能。

 魔法破壊、不可能。

 状態異常、効果無し。

 術式解除、どれだけ掛かるか分からない。

 想い人の愛、プライスレス。


「ニャアアアアッ、ちょっと待って欲しいのニャー! アイナ様、あなたのディアーナさんはここに居ますニャ! わざと無視してるのかニャ? もう、アイナ様ったら……って本当に忘れてるのニャ? いや、あの、アイナ様! アイナ様ァァァァァッ!」




     ◇




 翌日、膝を抱えて泣いている姿のディアーナが発見されたとかされないとか。

 さらに後日、今回の埋め合わせと謝罪を兼ねたデートにて、アイナ・ベルンゼファードを振り回すディアーナの姿が目撃されたとかされないとか。

 信じるか信じないかは貴方次第です。



 祝30万字突破記念!

 ということで短いですが連続更新しました、短いですが。

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