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第60話 堕女神討伐戦……?



 最終人型決戦幼女アイナ・ベルンゼファードと、堕ちた女神エルルニュクシス。

 二人の超越存在による、星をも砕かんがばかりの熾烈な争いは、女神エルルニュクシスの敗北と、その死を以て一応の決着と相成なった。

 けれど勝者たるアイナ・ベルンゼファードもまた無事とは言えず、心身ともに深い傷を負った彼女も長き眠りに就くこととなる。


 だが話はそれで終わらなかった。

 彼女達の戦いの余波は世界に大きな混乱を、そして人々に大きすぎる絶望を齎した。

 女神エルルニュクシスの骸より生まれ出た魔獣、後に七大巨獣と呼称される存在による襲撃と、その圧倒的な力による蹂躙の始まり。


 奇しくも七大巨獣の出現によって世界は有史以来初めて一つに纏まった。

 国家も、種族も、民族も、宗教も、主義も、主張も飛び越え、個々の利益を顧みることなく手を取り合い、一丸となって災厄へと立ち向かう。

 そして誰も帰ってこなかった。


 世界の命運を懸けた戦い、最大戦力をつぎ込んだ初戦にして決戦に敗れた人類は、あまりに多くのモノを一度に失う事になる。

 故に社会基盤の崩壊は時間の問題であり、人類は次第に生存圏を失い、七大巨獣の脅威から逃れるために身を隠すことを余儀なくされた。


 それから長い年月が経過する。

 朽ちる事のない七大巨獣の脅威は最早日常の一部となり、文明さえ衰退の一途を辿る人類は絶望と諦観を胸に、荒廃した世界で慎ましやかな生活を営んでいた。

 人が世界を支配していた時代は遙か過去の栄光、二度と訪れる事のない夢物語だと自分自身に言い聞かせながら。


 それでも希望は生まれる。

 絶望の暗闇の中でこそ輝く光が存在する。


 深き眠りから目を覚ました一人の少女。

 かつて自らが育てた仲間と共に多くの戦場を舞った戦乙女、御伽噺に刻まれたその名はナイア・ファルドゼーベン。

 少女は告げる、まるで花が咲いたような笑みを浮かべて。


「いらっしゃいませ、お客様。もう~、おいたはダメですよ。あんまり聞き分けがないと私だって怒っちゃいますからね。悪い子はめっ、です!

 うふふっ、くふふふっ、ところで冥土の土産にあま~いお菓子は如何ですか? あれれ、けどもう食べるお口がありませんねぇ。困ったなー。

 そうだ、だったら私が直接お腹の中まで入れてあげますね! うんしょっと、こうやって、こうして、はい! どうですか? 美味しいですか? あ、おかわりなら言って下さいね。まだまだたくさんありますから。しっかりたっぷり味わって下さいね!

 くくっ、こんな感じでどうかな。ねぇ、ナイア?」


 さあ、新しい神話を紡ぎだそうか────






 すとおぉぉぉぉぉぷッ!

 待って、マジ待って。何さらっと新章始めましたみたいなノリで、またあらすじ詐欺を繰り返しているのかな? バカなの?

 いい加減飽きた。じゃなくて、何いきなり終わったことにしているのかな?

 何も終わってないから、いや、そもそも始まってすらいないからねっ!

 もう本当にびっくりだよ!


 しかも勝手にエルルゥ死んだことになってるしさ。

 生きてるよ? エルルゥ普通に生きてるよ?

 それはもう「わたし怒ってます、ちょー不機嫌です」と言いたげな表情で腕を組み、私を見下ろしながらこれ見よがしに女神オーラを放ち、無数の羽根を撒き散らしているからね。

 ところで女神の羽根を使った羽毛布団ってどうなんだろう。保温性に優れているならコタツ布団として使えないかな? あとで回収しておこうかな。


「ちょっとアイナん! この狼藉はどういうことなのさ、ちゃんと説明してもらうからねッ!」


 ほら、エルルゥだってキレてるよ。ま、勝手に殺されたことになったら誰だって怒るよね。

 え、それはお前が駄エルフを利用してダンジョンごと吹き飛ばそうとしたからじゃないかって?

 いやいや、何を仰いますやら。


「いきなりダンジョンどころか管理者エリア(わたしのへや)までなくなっちゃうし、びっくりだよ、もお~! てかてか、私が受け止めなかったら危なかったよぉ~。この星ぱっかーんしてたよぉ~。星の危機を救うとかエルルゥさん偉い、褒めろぉ~、褒めちぎれぇ~」


 おおっ、さすがはディアーナ。星を貫くイメージでお願いしたとはいえ、本当にそれを可能とするとは。

 これでディアーナの奴も『星を砕く者』の称号をゲットして、また一つ規格外としてのレベルが上がったことになる。

 自分がそう仕向けておきながら敢えて言うけど、何故だろう、余計な事をしてしまった気がしないでもない。

 うん、気のせいだね。忘れよう。


「ねぇ、アイナん! 聞いてるのかなッ!?」


 苛立った声と共に振り下ろされた拳が、私のすぐ横の大地へと叩き付けられ、地面を大きく陥没させる。

 まあ、突然自分の部屋を吹き飛ばされて怒らない人なんていないよね。

 もし我が心のオアシスであるコタツを破壊されたりしたら、私だって心穏やかではいられないし、場合によっては世界地図を書き直す必要がある事態に発展するかも知れない。

 もちろん、そうならないよう保険としてディアーナに固定化の魔法を何重にも掛けてもらってるけどね。

 しかしこの触手で構築された拳、近くで見るとウネウネぐちょぐちょ蠢いていて、凄くエロい。あ、間違えた。凄くグロい。

 女騎士でもエルフでもない私としては触手プレイは遠慮したいところだ。

 ほら、丁度あんな所に動けなくなったエルフ──しかも実行犯──がいるよ。……もちろん冗談だよ、私だってそこまで性格腐ってないから。

 本当だよ?


「ちゃんと聞いてるよ、エルルゥ。キミは偉いよ、さすがはエルルゥだね。いつもはだらしないけど、やる時はやる女神様だ。アレクシエラ凌駕待ったなし、さすエルさすエル」


「えへへ、それ程でもあるよぉ~。ってそうじゃないよ!」


「ついかっとなってやった反省はしている。だけどね、キミならきっと私の想いが込められた一撃を受け止めてくれると信じていたんだよ」


 込められていたのは主に怒りだ。しかも実行したのディアーナで、私は装備を調達しただけだけど。まあ、そこまで説明する必要は無いよね。

 ディアーナが放った自称ファイヤーボールの火力は予想外だったのは事実だが、それでも仮にも女神なエルルゥを倒せるとは思わなかった。

 如何にぶっ壊れ性能のハイエルフなディアーナと言えど、現時点では女神を相手にするにはまだ荷が重いからね。

 何だかんだ言ってエルルゥの女神としての能力だけは信頼しているよ。


「星さえ砕かんとするほど荒々しく、身を焦がすほどに情熱的で、愛に満ち溢れたアイナんの……想い? 熱い、愛、想い、受け止める……ふえぇっ!?」


 など考えていると、突然エルルゥが素っ頓狂な奇声を上げる。

 それどころかボンッという音が聞こえ、頭から湯気が立ち上りそうなほど顔を紅潮させ、アタフタしている。

 一体何がしたいのだろう? どうしたいきなり、大丈夫かな?

 思わず心配してしまうじゃないか。


「確かに人間界に降りてから親しい相手といえばアイナん位だよ。人足途絶えてからも、たびたび会いに来てくれるんだよね、アイナんだけは。って、待って待って、それでもあのアイナんだよ? 傍若無人にダンジョンを荒らして周り、せっかく育てた魔物を虐殺し、いつも美味しいお菓子をお土産に持ってきてくれて、今じゃ手放せない人間を堕落させるクッションの製造方法を教えてくれたあのアイナんだよ? あれ? あれあれ? 落ち着けエルルゥ、ここで取り乱してはアイナんの思う壺だ、きっとぜったい。何も好意を向けられるのは初めてじゃないからね。天界に居た時だってモテていたんだよ、このエルルゥさんは。ほら悪神だって……だって……うん、忘れよう。アレは不幸な事件だったよぉ~。そもそもとして女神である私と釣り合う存在がこの人間界に居るはずがない。そりゃあアイナんは魔王や魔神より強いし、きっと低級神でも敵わないと思うよ。上級でも危うい存在だっているかなぁ~。あとアーティファクトだって沢山持ってるし、多分私にも隠しているけど、もっと凄いモノだって持ってる気がする。そうだよ、アイナんたくさんアーティファクト持ってるんだよ、それも凄いレアなやつ。いいなぁ、触りたいなぁ、欲しいなぁ。もしも、もしもだよ? 仮にそういう関係になったら……ふへへ、パラダイス。ハッ!? いやいや、何を考えて居るんだい、エルルゥ。この女神エルルニュクシス様が地上の矮小なる存在に……矮小なる存在? うん、さすがにそれは無理だね。女神力全開な私の前でも、かなりヤバ気なアーティファクト──それこそ神殺しだとか精神崩壊させて発狂させたり世界滅ぼせちゃうやつ──を前にしても平然としているアイナんが矮小だとか、冗談にもならないね。場合によっては神クラスじゃないかな? てかてか今さらだけどアイナんって何者なんだろう? ちょっと頭おかしい身体能力を持っているのにめっちゃ可愛くて、しかも出会って長い年月が経つけど老化も劣化もしない。身体構造自体は人のそれと変わらず、赤い血だって流れているのにね。ふっしぎぃ~。本人曰くちーとでばぐなんだそうだけど、エルルゥさんにはよく分からないかな。結果、アイナんはアイナんなのでしたマル。あれ? だったら何も問題ない? あと残る障害は性別? でもそんな些細なことはアーティファクトでも女神ぱわ~でもどうとでもなるよね。つまり最後は私の気持ち次第なのかな? アイナんのことはもちろん嫌いじゃない。むしろ好きか嫌いかと問われれば……うん。だからどうしてもって言うなら吝かでもないような気がしないでもないんだよねぇ、これが。というか改めて考えると、もしかしてアイナん以外の選択肢は現状存在しなくない? ッ、よってこの機会を逃すと……」


「お~い、エルルゥ? ダメだ、聞こえてないよ」


 声を掛けるが反応はなし。

 完全に自分の世界に入ってしまっているね。

 しかも何やらブツブツと呟いているんだけど、ところどころ危険なフレーズが聞こえてくる。

 虐殺、不幸な事件、低級神、パラダイス、矮小なる存在、女神力全開、精神崩壊、身体構造自体、残る障害、選択肢はない。

 何だろう、滅茶苦茶不穏なんだけど……。

 ほんとエルルゥのやつは一体何を考えているんだ。


「アイナん」


 戦々恐々とする私に対して、再起動したエルルゥは感情の読めない虹色の瞳から鋭い眼光を向けてくる。

 それでも同時に掛けられる重圧(プレッシャー)により、獲物を前にした狂暴な魔獣と対峙しているかのような印象を抱く。


「なんだい、エルルゥ。作戦会議は終わったのかな?」


 私は極めて余裕のある素振りを見せながら応えた。

 ディアーナの協力を得て万全の状態で挑んでいるとは言え、もちろん実際には余裕なんてものはない。

 相手は女神。生半可な存在ではなく、私は本気の女神エルルニュクシスの戦闘能力を知らないのだから。


 さあ、見せてみるがいい。

 神話に刻まれた女神エルルニュクシスの力を!


 すぅっと息を吸い込み、エルルゥは告げる。


「こんな激しい愛を受けたのは初めてだよぉ~」


「ん? んんっ? んんんッ!?」


 一体全体本当に何を言っているんだろうね、エルルゥは。


「責任取ってよね、アイナん! にゅふふふ」


 一転して笑みを浮かべるエルルゥを前に、状況がいまいち呑み込めない私は言葉を失うしかなった。



【おめでとう? 堕女神は……大丈夫か、ほんと?】

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