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第47話 一つの終着点

 そんなこんなで──有り難くないことに──無事に最高意思決定機関から魔王として正式に承認を受け、今日こうしてお披露目という名の拷問を受ける事になってしまったわけだ。

 正直勘弁してほしいけど、ここまで来てしまったら後戻りは出来ないんだろうね。

 恨むよ、ディアーナ。


 意を決し、前に踏み出した私は用意されていた踏み台に上がり、バルコニーの欄干に手を置いた。

 角度の問題か、突き刺さる視線の数が一気に増加し、酷い目眩に襲われる。

 先生、お腹が痛くなったんで保健室に行っても良いですか?

 むしろ早退しても良いですか?

 ダメ? うん、分かってた。


「私が神聖デモニウム帝国第99代皇帝アイナ・ベルンゼファードです」


 私の第一声に正面広場に集う群衆が大いにざわめいた。

 そりゃざわめくよね。


 魔王って今まで98人居たんだっけ?

 さあ、私も知らないよ。

 もっと多かったかも知れないし、もっと少なかったかも知れないね。


 ってかさ、神聖デモニウム帝国って何? 初めて聞いた気がするんだけど。

 そうだね、私も今初めて聞いたよ。

 思い付きというか、ノリだよノリ。

 ぶっちゃけオマージュというかパロディというかパクリというか……。

 だから深くは気にしないで欲しい。


 あの娘、可愛くない?

 ありがとう、照れるね。


 新魔王たんは俺の嫁、はっきりわかんだね。

 おまわりさーん!


「私が皆さんに望むことはただ一つです。私に従えなんて言いません。不要な混乱も望みません。

 今まで通りで構いません。前魔王ラグナの下で営まれた暮らしを、変わることなく続けていただきたいのです」


 そう、私が魔王になったからって何かを変えるつもりはない。

 ただラグナくんが行ってきた政策を引き継ぐだけだ。

 わざわざ手を出して混乱させては本末転倒。せっかくラグナくんが頑張ってきたものを壊したなんて事になったら目も当てられない。

 NAISEIが通用するのは創作物の中だけだよ。

 もっとも最大の理由は面倒だからなんだけどね。


「その為に私は自分の出来る限りの事を為すつもりです。

 もし巨大な障害が阻むなら、私がそれを取り除きましょう。例えそれが幾億の軍勢だとしても、例えそれが天より墜ちる星々だとしても、恐れや不安を抱く必要はありません。

 きっと皆さんは今現在疑念を抱いた事でしょう。ですが今はそれで構いません。むしろ疑念のままで終われば良いとさえ思っています。

 けれどもし、この都市が存亡の危機に瀕した時、私の言葉が真実であったと理解していただけるかと思います」


 まあ、格好いいことを言ってはいるが、要するにピンチの時だけ働くよ宣言だね。

 一応少しだけ魔力を解放して重圧を放ち、力の片鱗だけは覗かせておく。

 信じるか信じないかは貴方次第かな?


「私からは以上です、では」


 俺Tueee時代ならまだしも、今の私に人前で演説とか無理だから、これ以上は期待しないで欲しい。

 颯爽と踵を返す私。

 風に靡き、広がる髪を計算に入れる。

 優雅さアピール、決まった。


 だが次の瞬間────


「うなッ!?」


 緊張から解放された事による油断。

 衆人環視という精神的ダメージ。

 普段あまり着る機会のない丈の長いドレス。

 これまた普段履き慣れていないヒールの高い靴。

 それら悪条件が重なり、私は多くの人々の前で盛大に転んでしまう。


 それまで私の放った重圧によりある種の緊張下にあった場の空気が、一転して微笑ましい生温かなものへと変わる。

 威厳? 神秘性? 何それおいしいの状態であり、きっと私の評価は大人ぶったドジッ娘になってしまった事だろう。


「まおうたま、がんばえー!」


 うん、応援ありがとう、心優しき真なる幼女よ。

 お姉ちゃんがんば……らなくても良いかな?


 最後の最後で何という失態。

 ううっ、お家帰る。

 ああ、もうやっぱり家から出ると碌な事にならないじゃないか。

 引き籠もってやる、絶対に!


「やっぱりロリ魔王は最高だぜ!」


 っておい、誰だ今の!?


「え、お父さん?」


 しかも子供いるし!?


「くっ、何だお前達は!? 離せ、離せぇぇぇ!」


「お父さぁぁぁん!」


 ああ、多分どこからともなく出現した黒装束達──もちろんディアーナ配下の暗部──に連行されたんだろうね。

 私の分まで強く生きてくれ、少年。

 コタツの陰から応援しているよ。






 こうして私ことアイナ・ベルンゼファードはバグ幼女でありながら、何の因果か──たぶん友人選びに失敗したんだろうね──魔王の座を手にする事となってしまった。

 どうしてこうなったのかな、おかしいよね?

 私はただ唯一のオアシスであるコタツでだらけながら、日々何となく過ごせればよかっただけなのにさ。

 結果はこの様だよ。

 優雅なる夢のニート生活どこ行った!?


 はぁ……ほんと、解せぬ。


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