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第36話 いざ、魔王城へ!


 はい、ということで私は今、魔大陸に存在する魔王城を訪れています。

 え、過程はどうしたって?

 こまけぇこたぁいいんだよ。


 まあ、本当に特筆すべき事がないんだけどね。

 だって自宅に設置された転移用の魔方陣を起動するだけ、もはや玄関開けたら異世界だったレベルのお手軽さ。

 だから広がる毒沼の攻略や立ち込める瘴気の除去、それに高レベルモンスターとの戦闘なんかも必要としない。

 仲間と手を携え、苦難の末に辿り着くなんてイベント性は皆無であり、風情も何もあったもんじゃないけど。

 異世界広しといえども、自宅に魔王城へ直接繋がる魔方陣が存在するのは我が家ぐらいなものだろう。

 ま、便利と言えば便利だから不満はない。


 というか実際問題、魔王城の周囲には毒沼も瘴気も存在せず、常に厚い雲に空が覆われているなんて事もなく、普通に都市が構築されていたりする。

 確か魔導都市デモニウムって言ったかな。

 魔族が持つ高い魔導技術を用いて整備されている為、元々そこが荒野であったことを忘れさせるほどに発展している。世界でもトップクラスなのは間違いない。

 前世でいうラスベガスやドバイなんかを彷彿とさせるね。砂漠と荒野の違いはあれど、何もない僻地に突如として出現する近代的な街並みは異様さを感じるほどだよ。


 魔王の庇護の下、魔族だけでなく獣人やエルフ、知性を持つ各種魔物など数多くの種族がデモニウムに集まっている。

 魔族や魔物と聞くとどうしても暴力的で、力こそ全てのヒャッハーな世紀末的な暮らしを想像するかも知れない。

 けれど何てことはなく至って普通の文化的な生活を送っている。

 大通りを中心とした商業区なんかは、相応の活気に満ち溢れていることだろう。

 目的を達成した後、我が家で待つディアーナにお土産でも買って帰ってやろうかな。


 ただ現状、不安が拭えない。

 出発の前にディアーナの奴には外に出ない、不用意にスキルを使用しない、とにかく暴れないように口を酸っぱくして言い聞かせてきた。

 その代わり条件を守れば、家の中では好きにして良いとも。

 本当なら両手両脚を拘束し、アイマスクに猿轡にヘッドホンをプラスした上に、睡眠薬や痺れ薬を飲ませ、氷漬けにでもして完全に身動きを封じた状態で監禁したかったんだけどね。

 残念ながら現状そういう訳にもいかない。


 一応魔導具の効果を阻害するジャマーは展開してきたが、ディアーナ相手には気休め程度にしかならないだろう。

 はぁ、心配だ。……主に貞操が。

 時間制限もあることだし、さくっとミッションをコンプリートして帰った方が良いかも知れないね。


 うん? このまま効果時間が切れるまで時間を潰すだけでも良いんじゃないのかって?


 確かにそれも一理ある。

 だけど想像してみて欲しい。効果時間が終了した後、私の甘言に騙され、実力行使で既成事実作り放題なチャンスをふいにされたことに気付いたディアーナの反応を。


 理解できたかな、すごくめんどくさいよね?

 本来の身体を取り戻した後なら、ディアーナをあしらうのは何てことないけれど、出会ってもう長いのに未だ私を魔王に望むぐらい執念深い彼女のことだからね。

 きっと会う度にネチネチ言ってくるに決まっている。

 私はただ自分の身と世間体、延いては世界の安寧を守ったに過ぎないのに、責められるとか非道い話じゃないか。


 そこで文句を言われることが不回避なら、敢えて文句を言われることをしてやろうというわけだ。

 ふふっ逆転の発想だね。

 本人が魔王になってしまえば、もしかしたら私を魔王にしようとする考えを諦めてくれるかも知れない。

 それにほら、実力至上主義な魔族社会において、基本的に魔王の地位は戦闘の勝者に移譲されると相場が決まっている。

 故に「キミを傷付けたくない。だからディアーナ、キミとは戦いたくないんだ!」とか言って説得できる可能性もあるじゃないか。

 成功確率は低そうだけど。


 何か言いたいことがあるようだね。 

 なに、お前はポンコツなんだから余計な事はしない方が良いって?


 何を馬鹿なことを言っているのかな、世界最強のアイナさんだぞ。

 ディアーナやゼオラ達と一緒にしてもらっては困るよ、ぷんぷん。




 さて、転移先は魔王城の端に存在する研究区画。ディアーナの職場である魔導開発局が置かれた建物の中らしい。

 というのも魔王城の中に入るのは実は今回が初めてだったりする。

 魔導都市には冒険者時代に何度か訪れたことがあり、その際に現魔王と遭遇し、言葉を交わす機会があったのだけど。

 過去にやらかしている以上、やはりどうしても魔王城には近付きづらいものがある。


 だってよくよく考えれば、魔族側にとって私は問答無用で国家の中枢にテロ攻撃を仕掛けた大量虐殺犯だからね。

 その事実が齎す責任や罪悪感や重圧に元小市民の私が圧し潰されなかったは、やはり兵器として生み出されたチートボディのおかげなのだろう。

 当時の生存者や目撃者がディアーナしか居ないとはいえ、過去に魔導都市を訪れた時は姿を偽るために偽装魔法で幻覚を身に纏わせた。

 今回はその必要はなさそうだけど。


 しかしあの後、当然のように世界は混乱して事後処理が大変だったよ。

 あの攻撃で魔王城とともに当時の魔王、四天王、上級幹部にほとんどが消滅。

 それにより軍事バランスは崩壊。

 魔王軍は統率を失い、地方に領地を持っていた貴族や前線に立つ有力魔族達が暴走。

 それを好機と捉えた人類連合は虎の子の勇者を投入しつつも、魔王という共通の脅威が消えたことにより、戦後を見据えて密かに自国の軍を周辺国との国境に配備。

 宗教家達は神の裁きだとか神の奇跡だとか騒ぎだし、その裏で商人達が復興特需と新たな戦争利権を求めて暗躍を開始。

 下手をすれば全世界をそれまで以上の戦禍が襲い、混沌が覆い尽くし、その結果にゼオラ出撃のコンボが決まるところだった。


 幸いディアーナの協力もあり、魔王軍は前線を立て直すことに成功。緩やかに後退しつつも戦線を維持したまま一定の均衡を保ち、人類連合も瓦解の危機を乗り越えた。

 その件に関しては当然ディアーナには感謝しているよ。

 当時からやたら次期魔王になるように勧めてくることを除いて。

 閑話休題。


 通路を進む。

 ディアーナから城内の大まかな構造は聞き出した。さらに監視衛星の各種センサーを用いて内部をスキャンし、構築した3Dマップを携帯情報端末に落としているので迷う心配はない。

 備えあれば憂いなし。

 一応これでも方向音痴気味な自分の欠点は理解しているつもりだよ。


 あ、ちなみに今の私はディアーナの仕事着である軍服姿だ。

 何だかこう気分が引き締まるね。

 本来の私が着てもコスプレにしかならないけど、ディアーナの容姿だといかにも優秀な女幹部みたい雰囲気が出てて本人は中身駄エルフなのにずるい。

 いや、私だって成長した暁には軍服の一つぐらい完璧に着こなす、クールビューティになれるはずだよ、きっと……うん。


「あ、おはようございます、局長。今、大丈夫ですか?」


 訪れる可能性が限りなく低い未来に思い馳せている私に声が掛けられる。

相手は魔族の男。

 場所柄を考えればディアーナの部下なのだろうけど、当然私にとっては初対面の相手。

 くっ、バッドスキル『人見知り』が発動する。

 どうする、どうすればいい?


 まずは落ち着け。

 今の私はアイナ・ベルンゼファードではない。

 そう、ディアーナだ。

 演じればいい、ディアーナを。

 不審がられないように落ち着いて、普段のディアーナをトレースすれば良いだけのこと。

 長い間、近くに居るんだから簡単なことじゃないか。

 ん、んんっ、声が上擦らないように気を付けて、平常心を心懸け、普段どおりに。

 大丈夫、私はできる子だよ。

 ふぅ……よし!


 私は脳天気な笑みを浮かべながら、明るく言い放つ。


「はいニャ、おはようございますニャー」


 その瞬間、世界が痛いほどの静寂に支配された。

 まるで時さえも止まったかのように私も目の前の男も動けない。

 何か失敗した事実は理解したが、それが何かはすぐに理解できなかった。


 永遠に続くかに思えた沈黙。

 だが変化を急に訪れる。

 凍り付いた男の顔色が血の気を失って青に、そして遂にはゾンビも驚きの白へと変化し、表情は彼の心を満たした絶望を如実に表わしていた。

 そして────


「殺さないで下さいッ!」


 男は勢いよく床に両手両膝を着き、額さえも擦り付けていた。

 どこをどう見ても綺麗な土下座だった。


 出会い、挨拶を交わし、土下座される。

 私は一体何を間違えたのだろうか?

 えっと、どうしよう、これ?

 私は混乱するしかなかった。



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