第32話 ベリーメロン!
「ホワーイ?」
目が覚めると何故か二つのメロンがたわわに実っていた。
何を言っているのかさっぱり分からないだろうけど、私自身も状況が理解できずに困惑しているので許して欲しい。
取り敢えず順を追って説明するよ。
目覚めた私が最初に目にしたのは、何故かリビングの天井であった。
確か昨日はちゃんと自室のベッドで眠りに就いたはずだ。
この時点で少なくない違和感を感じていたんだけど、もしかしたらコタツで寝落ちして、ベッドで眠ったというのは既に夢の中の出来事だったという可能性もないわけじゃない。
夜中にトイレに起きたのはいいが、寝ぼけて部屋に戻らずコタツで寝てしまったなんてケースもあるかも知れない。
まあ何れにしろ理由付けができる為、納得することは可能だと言えるだろう。
そんな私が次に感じたのは、何故かいつもより重く思える身体の異変だった。
普通なら今日は体調が優れないな、風邪でも引いたかな? なんて考えるだろうけれど、このチートボディが風邪のウイルス程度にどうこうできる可能性はゼロだ。コンマ以下数パーセントも存在しない完全なる零パーセント。
例えお風呂上がりに体を拭かず、髪も乾かすことなく、冷房を最強にして全裸で寝たとしても無意味。
え、そもそも馬鹿は風邪を引かないだろって?
うん、言うと思ったよ。後で旧校舎裏だね。
同様に前日どれだけ肉体を酷使したとしても、筋肉痛や疲労感などの影響が残ることも有り得ない。
つまり疲れや病気といった一般的な原因によって齎された異変ではないということだ。
ここまで来ると流石に、また面倒に巻き込まれているんだろうと嫌でも気付かされる。
「はあぁ……」
私は大きく溜息を吐きつつ、ことさら重く感じる胸に手を伸ばす。
果たして何かが乗って居るのか、それとも重力魔法や時間や空間に干渉できる異能による攻撃なのか。
想定される相手とその目的は何か。
だが対処法を思考する私を待っていたのは想定外の衝撃だった。
もにゅん。
「ん、柔らかい?」
触れた指先が心地良い柔らかさの何かへと吸い込まれるかのように沈んでいく。
そう、それはまるでスライムの撫で心地を連想させる弾力だった。
しかしながらスライムを室内ペットとして飼っている事実はない。
この世界でも一般的なスライムは某王道RPGと同様、最初の村の周囲に配置される程度の魔物だ。
その為、我が家のセキュリティをくぐり抜け、なおかつ私に気付かれることなく接触する事は不可能。
もちろんピンキリだし、中には竜種さえ呑み込む災害指定級の変異個体──私の使い魔だね──などの強個体も存在するけど、そんなレアスライムが発生したという話は届いていない。
ぷるぷる、ボクわるいスライムじゃないよ。
そう、スライムではないうようだ。
では一体この実にけしからん物体は何なんだろうか。
……いや、本当はもう理解していた。
それでも受け入れたくはなかったのかも知れない。
だけどいつまでも無視し続けるなんて出来はしないからね。
現実を直視するために胸元へ向けた視線は、聳える二つの双丘によって遮られた。
そして話は冒頭に戻るわけだ。
「これはつまるところのアレだよね?」
もにゅんもにゅん。
遂に私にも成長期が訪れ、持たざる者から持つ者へと進化を果たしたのか。
揺れる二つのメロンを見て、私は何とも感慨深い気持ちになった。
「そうかぁ、私も遂に駄エルフ達の仲間入りかぁ……うん、ないね」
しかしすぐに一周回って冷静になる。
寝て起きたら気付かぬ間に巨乳になってましたなんて認めない。
ああ、認めないとも。
身長は諦めたが、胸の成長を諦めきれなかった私はかつて様々な方法を試した。
例え本来有り得ないロリ巨乳だって良いじゃないか、ここは異世界なんだから。
女性ホルモンを増やすマッサージや体操やツボ圧し、イソフラボンやボロンを多く含んだ食材の捜索と摂取、バストアップに効果的だという温泉巡り、異世界特有それなんてエロゲな魔法や魔法薬。さらには他種族を交配に適した身体へと作り替えるという魔物が分泌する体液まで、ありとあらゆる方法を試した。
その結果、私は一つの真理に辿り着く。
このバグった性能のチートボディでも──いやだからこそと言うべきか──豊胸は不可能なのだと。
そんなこれまでの努力を嘲笑う奇跡などクソくらえだ。
だけど、だけどだよ?
例え如何なる存在の干渉による現象だとしても、夢にまで見たばいんばいんな御胸様が鎮座しておられる現状、微塵も嬉しくないと言えば嘘になるのが複雑な乙女心だったりする。
取り敢えずロリ巨乳へと変化したマイボディを確認するとしよう。
対策や何やらを考えるのはその後だ。
などと考えながら私は起き上がり、姿見の前へと向かう。
立ち上がった瞬間から、どうも身体のバランスが安定しないように思えるが、今まで存在しなかった胸部装甲が追加されたが故の重心の変化のせいだろう。
またいつもより視点が高いようにも感じるが、これは気のせいに違いない。
違和感に戸惑いながら姿見の前まで辿り着く。
「ん?」
そしてそこに映し出された姿を視界に収め、私はいまだ寝ぼけているのかと首を傾げた。
一度瞼を閉じてみるが変化はない。
目頭を押さえてみたり、目元を擦ってみても効果はない。
ならば悪い夢を見ているのかと、一応お約束で頬を抓ってみたがやはり意味はない。
だから私は思わず叫んでいた。
歓喜でも、落胆でもなく、驚愕の叫びを。
「うわあああああぁぁぁぁぁぁ────」
鏡に映る私の髪は黄金を散りばめたかのように金に輝き、瞳はどこまでも蒼く澄んでいて、身体は出るとこ出まくりで引っ込むとこ引っ込みまくりな一流モデルも真っ青なボディラインを誇っていた。
既視感どころの騒ぎではない。
どう見ても駄エルフです、本当にありがとうございました。
何これ!?
おいおい、どういう事なんだい!?
私がお前で、お前が私?
いやいやいやおかしいだろ?
これは一体、何がどうなっているんだ?
え、いやちょっと待って。この身体が駄エルフのものだというなら、つまり何だ。
私は嬉々として駄エルフの胸を揉んでいたわけか……。
「おふっ」
衝撃の事実に私は膝から崩れて項垂れる。
ちゃうねん、確かに大きなおっぱいは魅力的やけど、ゆりんゆりんとかそういうつもりはないんよ。
「って待て待て、じゃあ私の身体は?」
私が駄エルフの身体になっているなら、まさか私の身体には……ハッ。
「私の貞操が危ない!」
脳裏を掠めてしまったピンク色の光景に急き立てられ、私は走った。慣れない高身長の身体に戸惑い、転びそうになりながらも自室を目指して走った。
後世に走れアイナという名作が残されるほどに頑張った。
「ディアーナアアアアアァァァァァ!」
引き千切らんがばかりの勢いで自室のドアを開け、叫びながら足を踏み入れた瞬間、美幼女となった駄エルフ(推定)はまだベッドの上で眠りに就いていた。
セーフ、良かった間に合った。
「うぅ、アイナ様うるさいのニャ……」
激しいドアの開閉音&私の叫び声に目を覚ました駄エルフがそんな事を宣う。
いや、もし私が同じ立場でも同様……いや口より先に手が出ていたかもしれないが、今は緊急事態なんだから悠長な事は言ってられない。
「ディアーナさん、昨日は遅くまでお仕事頑張ったのニャー。だから……もう少し……おやすみなさい」
再び目を閉じ、完全に二度寝を決め込む駄エルフ。
いや、寝るな。
普段なら相手をするのが面倒だから当分起きてこなくて良いと思う所だけどね。
でも堪らず私は駄エルフを揺り起こしながら叫んでいた。
「おい、止めろ。私の姿でニャーとか言うんじゃない!」
その後、目覚めた駄エルフを前に私は後悔することとなる。
やっぱり寝かせておいた方が良かったと。
分かってる、後で悔いるから後悔なんだよね……はぁ、めんどくさい。




