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第26話 星の守護者

「いや、さすがの妾も驚かされたのじゃ。まさかあのような水芸で歓迎されるとは思わなんだ。あれだけ鼻から大量の鮮血を迸らせる姿は戦慄を抱くほどに衝撃を受けたのじゃ。逆さぷらいずとは実に見事。

 しかし、しばらく俗世を離れている間にエルフも面白くなったのぉ。妾が知っているエルフは堅物ばかりじゃったというに」


 感心したように頷くゼオラ。

 いや、それは駄エルフだけだから。駄エルフが特殊だから。世のエルフ全てが同じだとは思わないで欲しい。


 ただ薄々気付いていたけど、床に広がっていたあの血の海。もしかしなくても鼻血だったというわけだ。

 ゼオラの言い方からして、たぶん顔面を殴られたとかじゃないよね?

 人化したゼオラの裸、つまるところ私の裸を見て興奮したのかな?

 昭和テイスト溢れる純朴童貞少年か、キミは。

 スマホ一台あればエロ画像なんていくらでも入手できる昨今、絶滅危惧種の天然記念物レベルだ。

 そもそも幾度となく一緒にお風呂に入る仲なんだから、私のロリボディなんて見慣れているはずだろうに。


「ニャハハ、何のことかディアーナさんには分からないのニャ」


 呆れたながら険を帯びた視線を駄エルフへと向けると、そんな事をのたまいやがる。

 うん、なかった事にするつもりだね。

 すでに証拠隠滅は完璧だ。何故か身に纏っているメイド服、血の海が存在していた床には血痕一滴残されてはおらず、血臭さえも感じさせることはない。

 きっとルミノール反応も検出させれないだろうね。

 水魔法の応用か、それとも禁術クラスの消滅魔法なのかは分からないけど、何たる無駄ハイスペック。さすがは駄エルフだ。


「お姉ちゃんはディアーナっていうのニャ。お嬢ちゃんのお名前教えて欲しいニャ」


「ん、妾か。アイナからはゼオラと呼ばれておるのじゃ」


「ゼオラちゃんって言うんだニャ」


 おいおい、あのゼオラにちゃん付けって。

 理解していないようだけど、キミが膝に載せている私風幼女はこの世界の生態系の頂点である竜種。そのさらに頂点に君臨する存在だぞ。

 あまり調子に乗っていると、簡単に消し飛ばされてしまうよ?


 本来なら下半身が押し潰されるどころの話ではない。

 質量保存の法則だけでも仕事すればいいのに。

 いや、待て。駄目だ。もしそうなれば我が家の床が抜けてしまう。ある程度の損傷ならナノマシンのおかげ修復されるが、さすがに許容範囲外だ。


 しかし駄エルフに真実を教えるべきだろうか?

 その場合、どんな面白い反応リアクションを見せてくれるかな。


「ねぇ、ゼオラちゃん。お姉ちゃんがミカン剥いてあげようかニャ?」


「おお、それはありがたいのぉ。お願いするのじゃ」


「ちょっと待ってて欲しいのニャ。むきむきっと、はい、あ~ん」


「あ~ん、うまうまなのじゃ」


 何だと。普段は面倒がって自分で剥くことなく、私の剥いたミカンを狙うくせに。

 ゼオラには剥いてあげるとか解せぬ。

 そこまでしてお姉さんぶりたいのかい?

 いや、別に羨ましいとかそんなんじゃない。

 嫉妬? 何を馬鹿なことを、私が駄エルフの行動に対して嫉妬心なんて抱くはずもない。

 自分と酷似した幼女と戯れる駄エルフの姿が目障りなことには変わりないけど、嫉妬する要因なんて皆無だよ。


「髪さらさらニャ、ほっぺたぷにぷにニャ」


 そうこうしている間に駄エルフの行動はエスカレート。

 ゼオラの髪を撫で、頬をつつき、また頬ずりする。

 くっ、このロリコンが!

 目の前で発生する事案。おまわりさん、コイツです。


 その一方でチラチラとこちらの様子を確認する駄エルフ。

 きっと「効いてるニャ、効いてるニャ。ディアーナさんの愛が恋しくなるはずだニャー」なんて考えているんだろうね。

 っていうか、途中から声に出てたし……。

 やはり頭が残念な駄エルフだ。

 ウザいことこの上ない。


 そっちがその気なら良いだろう。

 私も応えてあげよう。

 タイミングを見計らって……よし、今だ。


「ねえ、ゼオラ」


「何じゃ?」


 不意に掛けられた私の声に反応したゼオラが視線を向けてくる。

 当然それと同時に動く黄金の角。

 間近に居た駄エルフ。

 その結果は言わずもがな。


 プスッ。


「にゃあああああ目が、目がぁ~!」


 目を押さえて床を転げ回る駄エルフ。

 いい気味だね。


「妾としたことが、すまぬ、エルフの娘」


「気にする事はないよ、ゼオラ。今のは不幸な事故だ。それにどうせすぐに復活するだろうからね」


 申し訳なさそうな表情を浮かべるゼオラに対して、私は満面の笑みを浮かべて告げる。

 さて、そろそろ仕切り直しといこうか。


「それで今日はどうしたんだい? まだ泉の様子を見に来る時期じゃないし、旧交を温めに来たっていうならもちろん歓迎するけど」


 どうせ面倒事が舞い込むだろうと諦めつつ、それでも一縷の望みを掛けて私は問い掛ける。


 ああ、ちなみに泉というは我が家の庭である黒の森の奥。つまりは我が家に程近い位置に存在する、言葉通り地中から湧き出た水の溜まり場のことだ。

 当然のことながら黒の森の奥深くにあるそれが、ただの泉であるはずがない。

 というか、実はその泉こそ世界最難関のダンジョンである黒の森の原点とも呼べる。


 神魔獣の巣窟、神の試練場、英雄殺しの森、そして地獄に一番近い場所など数々の物騒な異名を持ち、今でこそ黒き森の名で定着している我が家の庭だけど、何も最初からダンジョン化していたわけじゃない。私が手を加えた事実はこの際置いておく、事の起こりは私がこの世界に覚醒する遙か昔だからね。

 そう、我が家たる資源調査船団旗艦が墜落し、この星の大地に深く突き刺さったことに端を発している。


 大質量の物体が大地を抉った結果、周辺地域は地殻変動に見舞われた。

 さらに大地深くに突き刺さったその先端は、あろう事かこの星の大地の下に存在していたエネルギーの流れを傷付けてしまう。

 所謂地脈だとか龍脈だとか霊脈だとか魔晄だとか生命の息吹だとか言われ、異世界ファンタジーの王道では広くマナと呼称されている代物だ。

 当然お約束のように純度の高いマナには高濃度の魔素が含まれている。


 あとは簡単だね。

 地下水と共に地表へと湧き出したマナが内包していた魔素は、瞬く間に周囲の森を呑み込み、生態系を一変させ、高濃度の魔素が齎した淘汰と進化の果てに世界最難関のダンジョンは誕生したというわけだ。

 その当時と比べれば濃度は低下しているとはいえ、今でも枯れることなく湧き出す泉は世界基準を大きく上回る魔素を放出している。


 もっとも黒の森クラスほどではないにしろ、魔素の吹き溜まり(ホットスポット)は世界中に点在し、霊峰・神域・聖地・魔境などと呼ばれて管理されていた。

 魔族の支配領である魔大陸に高レベルの魔物が多く出現するのは、このホットスポットが多く存在するためだったりする。


 でだ、この世界の生態系の頂点に君臨するゼオラには、それらを数十年から百年程度に一度の周期で巡視し、場合によっては発生した魔物の排除や飽和した魔素の処分といった使命が与えられている。

 もちろんゼオラがその巨体を人目に晒せば大騒ぎになる事は間違いないので、隔離世を潜行しながら極秘裏の内に行っているらしい。


 え、誰に使命を与えられているのかって?

 良い質問だね。

 ゼオラに唯一実質的な命令権を持つ存在は一人──といっても良いのかな?──しかいない。あ、こればかりは残念ながら私じゃないよ。

 それこそが星の意思だ。神または世界の意思と言い換えても良いかも知れないけど、この惑星は一つの生命として意思を持っている。

 前世にもガイア理論──地球を一つの巨大な生命体と見なす仮説──なんてものがあったけど、言葉を発したり意思疎通が行えたりはしない。まあ仮に出来たとしても精神の異常と診断されて終わりだろうけど。


 けれどここは魔法なんてメルヘンパワーが存在し、竜や精霊や魔神なんて超常の存在が当たり前のように息づき、神話と宗教が生活に寄り添う異世界だ。

 星の声が聞こえたり、神の啓示を受けたりしても何らおかしなことではない。

 むしろゼオラが自然界の掟や物理法則を無視した巨体を維持し、戦闘能力を保持している理由として、ファンタジーなご都合主義による干渉があったと見るほうが納得できるというものだ。

 いや、そもそも最初から星の守護を目的として生み出された存在と考えるべきなのかも知れない。


 ゼオラの話が真実なら、この星に攻めてきた敵性宇宙人と宇宙空間で戦い、その母艦を破壊して殲滅した事もあるらしい。

 まさに星が生んだ超兵器オーバードウェポン、超時空要塞も真っ青だね。

 さすがは女神アレクシエラの神話よりも、さらに古い神話に創世の竜とも終焉の竜とも描かれた存在なだけのことはある。

 神竜種、神の名を冠するに相応しい能力だ。


 しかし思うんだけど、この世界基本的にはファンタジーなんだけど、ちょいちょいSF要素が入ってくるよね。いや、まあ、そのおかげで私は素敵な身体を手に出来たんだから良いんだけど……う~ん。

 ちなみ私の創造主である外宇宙の人類が飛来した時はどうだったのかと聞けば、どうやら星も判断に迷っていたらしく、対応を決める前に大勢が決してしまったようだ。

 近付いてきたと思ったら、いきなり同士討ちを始めて、気付いたら女神が誕生していたとか、そりゃ星だって困惑するに決まっている。

 アレクシエラ、恐ろしい娘。


 またその時に聞いた裏話では、アレクシエラが女神として神話に名を刻むこととなった大戦乱時代は、生物の増加が許容範囲を超えた星の意思により、ゼオラとは別の星の守護者によって引き起こされたものだったようだ。

 力押しのゼオラとは違い、権謀術数を得意とするタイプも存在しているのだろう。

 ゼオラ本人は自分にも可能だと吠えていたが、かつて一夜にしてこの星に存在する全生命体の半数を滅したとか自慢していた事実を記憶している私としては、やり過ぎたから外されたのだろうと苦笑する他ない。


 ただゼオラに張り合うわけじゃないけど、私だってやろうと思えば出来るよ。衛星軌道上に展開した複数のサテライトキャノンを一斉射すれば良いんだから。

 まあ、外宇宙産のボディかつ異世界産の魂という不純物の混じった私には、生憎と星の声が届いたことはないけれどね。


「確かに泉を見に来たわけではない。旧交を温めることに是非はないのじゃが、これも本題ではないのじゃ」


「そうなんだ、じゃあ何があったのかな?」


 私の問い掛けにゼオラの表情が真剣なものへと変わるが、それは同時にどこか申し訳なさを感じさせるものだった。

 ゼオラとしては私を出来るなら巻き込みたくはないのだろう。

 やばい、チョロインじゃないけど好感度が上がりそうになる。私に周りには何気に気遣いができる相手が少ない思うんだ。


「……うむ、それがな」


 僅かな躊躇い。


「出来ればまた協力して欲しいのじゃ」


「また……というと?」


 過去ゼオラに協力したことって何があったかな、と記憶を思い返し、その中で最も面倒だったものに当たりを付ける。

 常に最悪を想定しておくべきだ。

 その方が精神的ダメージが少ないことは過去の体験が証明している。

 なんて嫌な防衛手段だろう。


「勇者が召喚された、もしくは近い内に召喚されそうなのじゃ」


 なるほど勇者降臨祭の季節の到来か。

 もうそんな時期なんだ。

 そうか、そうか、勇者召喚かぁ……。


 だからフラグの回収速いよ!



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