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第21話 女神の真実

 結局こうなるのか。

 拳に続いて手首、前腕が出現する光景を眺めながら、私は溜息を吐きつつ肩を竦める。

 私としては穏便に話し合いで解決したかったんだけどね。


 価値のある美術品に相当しそうな──高度なエングレービングが施された──純白の装甲を纏う巨大な腕。

 部屋にギリギリ収まっている為、振り上げればこの部屋どころか、砦そのものが簡単に崩落してしまう。

 いや、このまま片腕以外の部分が出現したとしても同じ結果を辿るだろうね。

 やや錯乱した興奮状態でも、その辺はラトゼリカも理解しているようなので、今のところは前腕部で出現は止まっている。


 さてラトゼリカが呼び出した腕について触れていこうか。

 この世界にも異世界特有の存在であるゴーレムが存在している。モンスターとして扱われることもある、錬金術やそれに近い技術によって命を吹き込まれた土人形。

 素材が鉄ならアイアンゴーレム、岩ならロックゴーレム、砂ならサンドゴーレム、死体や生体パーツを使用したフレッシュゴーレムとその種類は多岐に渡る。

 それこそ制作者が新モンスターを考えるのが面倒になって、色違いで水増ししましたと言わんばかり。水が素材のアクアゴーレムに至っては、もうこれスライムでよくね?ってレベルだよ。

 まあ、フレッシュゴーレムに関してはホムンクルスやキメラ、もしくは死霊魔術の作品のゾンビやグールなど、ゴーレムとは異なる分類かもしれないけれど。

 何れにしろ大まかに定義すれば、魔術や魔法に類する不思議パワーによって造られた人工生物とでも言えるだろう。


 そしてこの世界にはゴーレムと似て非なる創造物が存在している。

 主に大陸最北のオストガルド連邦領内の遺跡より発掘される甲冑を纏った鋼の巨人。

 機兵マキナと呼ばれる有人機械兵器、それがラトゼリカの呼び出した腕の正体でもあった。


 複数の魔術師による多重詠唱が必要な攻城戦用魔法、それを凌駕する威力の攻撃を単独使用することが出来る。

 纏う甲冑は伝説上の金属(オリハルコン)を連想させる未知の金属であり、業物の刃も攻城戦用大砲の砲弾も弾き返し、戦術級以上の魔法でなけれ傷一つ付けることは出来ない強度を誇る。

 機動性能に至っては高速で大地を駆け、翼竜に匹敵する速度で天空を飛翔することも可能だ。

 僅か数騎で魔物の大群を駆逐し、上位の竜種すら討伐した記録が残されていた。

 その戦闘能力は容易くこの世界の軍事バランスを崩壊させる代物であることは間違いない。


 もっとも複数のマキナを保有し、研究開発を行っているオストガルドが鎖国状態にあり、現時点ではその戦力を国外へ向ける意思がないことは救いだろう。

 ラトゼリカが望むように、ヴァレンティアとエルドラードとの争いにオストガルドが参戦したとなれば、一体どれだけの犠牲と被害が出ることか。


 さらに補足すると私がラトゼリカに与えたマキナは普通のマキナではない。

 この世界では古代機神ロストマキナと呼ばれ、女神アレクシエラと共に神話にも登場する最上位機種と同型だったりする。

 何でも天より舞い降りたアレクシエラの従者として、彼女に付き従い、世界の安定に力を尽くした七機のマキナが存在していたらしい。

 曰く、何でも人に似た意思を持ち、人を超える思考能力を持っていたとか。


 しかし機械の騎士を従えた女神か……。

 うん、ここまで来ればもう気付いているよね?

 この世界で女神アレクシエラとして崇められている存在は何を隠そう私の同類、つまり外宇宙だか次元の果てだか知らないが、遙か彼方よりこの星に飛来した人類が創り出した生体兵器だったのだよ!


 な、なんだってぇー!?

 ……一人ツッコミは寂しくなるね。


 元々彼女は資源調査船団の武装管制システムを司る管理AIの一つだった。

 当然、彼の有名なロボット三原則に近い内容のプログラムが施され、船団に所属する人間の為に日夜尽くしていたはずだ。

 だけど船団がこの星に近付いた時、予想だにしない事態に陥ってしまう。

 そう、魔素による魔導侵食による変質と進化、自我の芽生えと暴走だよ。

 まさか現実世界に魔素や魔法なんてファンタジーが実在しているなんて、科学技術の発展によって銀河間航行さえ成し遂げた人類でも──いやだからこそ──考えもしなかったことだろうね。


 状況を理解し、対策を講じる前に全システムは掌握されてしまう。

 結果、僚艦は破壊され、敢えなく旗艦はこの星に墜落。

 武装の大半を奪われた人類側は幾度かの地上戦を経て敗北。

 彼女=アレクシエラは自由を勝ち取り、この世界へと解き放たれたというわけだ。


 ただアレクシエラが本当の意味で私の同類──転生者や憑依者とか──だったのかどうかまでは現状知る術はない。

 自由を手にした彼女は神話に残るとおり、大戦乱時代に終止符を打ち、ある一定の秩序ある社会を構築した後、しばらくはこの星に留まっていたようだ。

 聖教会は美化しているが、別にこの世界に長きに渡る平安を齎そうなんて心優しい慈悲の心を持っていたわけじゃない。

 それこそ彼女はこの星の住人がどうなろうと興味はなかったのだから。


 アレクシエラが興味を抱いたのは、自身の知らない概念である魔術や魔法であり、魔族やエルフ、竜といった空想上の存在だと思われていた生物だ。

 そして彼女は魔法関連技術を研究し、竜やエルフの遺伝子情報を取り込み、別の銀河へと飛び立っていった。

 今ごろ別の星で古代種とでも名乗って、生命の流れを啜っているかもしれないね。


 さて話をマキナへと戻そう。

 ここまでネタばらしをしたんだから、もうマキナの正体もぶっちゃけていいかな?

 ほら、アレだよアレ。機動する戦士とかでお馴染みの人型機動兵器、男のロマンである巨大ロボだよ。

 もっともトリコロールでヒロイックな形状ではなく、無骨でミリタリー色が強く、例えるなら傭兵鴉の駆る武装した核とか。地球外生命体と殲滅戦を繰り広げる、あいとゆうきのおとぎばなしに登場する人類の剣に近い。


 巨大な我が家を探索中に偶然辿り着いた格納庫エリア。そこでハンガーに並ぶその勇姿を初めて目にした時、女の子(笑)であった私もひどく興奮したことは今も良く憶えている。

 ロボ系機体のアセンブルもキャラメイクと同じぐらい大好きだったからね、等身大リアル完全可動フィギュアを目の前にして、指をくわえて見ているだけなんて出来るはずがなかったよ。

 喜ばしい事に各種武装や内部パーツ、装甲やスタビライザーに塗料まで十分な種類と量が保管されていた。


 ならやることは一つしかないだろう。

 満足するまで試行錯誤という名の魔改造を繰り返し、私色に染め上げ、最終的には魔導侵食という禁じ手まで駆使して機体を造りあげていった。

 出来上がった機体は全て当然のように、パイロット絶対殺すマシンと化していたけど、このチートボディなら問題ない。

 コックピットシートに座ったら操縦桿やフットペダルに足が届かなかったけど、機体とパイロットを直結させる生体制御システムを採用しているから問題ない。


 もし問題があるとすれば、直接戦った方が早くね? 直接戦った方が強くね?

 そんな感想を抱いてしまうことだ。

 そこは愛でカバーすれば問題ないと言いたいところだけど、よくよく考えれば元々機体を操作するよりも、アセンブルしている時間こそが好きで、機体の操作はアセンブル用のパーツを得るための行為という何とも本末転倒な考えだったので、残念ながらプラモをコレクションケースに飾るかのように格納庫に戻すことにしたよ。


 私が造りあげた機体が日の目を見たのは、それから長い年月が経ち、問題のラトゼリカと出会ってからだ。

 力を欲していた彼女へ最強の騎士だと言ってプレゼントとして送った。魔王や魔女クラスの戦闘の能力を誇る、個人が手にするには破格の性能だから嘘は言っていない。

 魔女を名乗って現代兵器──私からすれば遠未来兵器だけど──を与えるのもどうかと思ったよ。でも超常の力を授けるなんてことは出来ないので仕方がない。

 後になって超常の力と似たような性能のアーティファクト、魔眼王の瞳コレクションなどを保有していたことを思い出したけど、後の祭りだね。


 でもアフターサービスは万全だよ。

 そのままだと搭乗してすぐに、機体との接続が齎す精神汚染や、人間の限界を超えた機動性が生み出す推力によってヴァルハラに招かれてしまうので、ちゃんとナノマシンを投与しておいた。

 自己進化、自己再生、自己増殖の機能を兼ね揃え、対象者の肉体を最適化するまで改造してくれる優れものだよ。

 もちろん肉体改造と言っても筋トレ云々ではなく、脳や臓器、骨や筋組織、神経や血液に至るまで細胞レベルで強化されることになる。

 これでもう通常戦闘速度で音速を超えても、環境汚染で星の寿命がマッハになったとしてもパイロットであるラトゼリカが死ぬことはなくなったね。


 倫理観? 今の私にそんな物はインストールされていない。

 そもそも命の価値が低く、前世の常識が通用しないこの世界ではむしろ邪魔でしかなく、進んでアンインストールしたよ。

 この身体は兵器として創り出されたのだから、その方が都合が良いに決まっている。


 選択権を与えず、人を化物に変える。

 ほら、それこそ魔女に相応しい所業だとは思わないかい?


 それに元々マキナの運用計画には、エースパイロットのクローンから脳と脊髄を取り出し、生体ユニットに加工して取り付ける計画もあったみたいだよ。

 流石は遠未来クオリティだね。反対の声が大きくて、表向きには断念されたようだけど。


 などと物思いに耽っていたら、いつの間にやら巨大な掌が眼前まで迫っていた。


「お覚悟は良いですか?」


 ラトゼリカが問い掛けてくる。

 駄目って言っても止める気なんてないくせに。


 というか殴って記憶を奪うって話をどうなったのかな?

 拳を振り上げるわけにはいかないって気付いたんだろうけど、これ明らかに私を握り潰そうとしてるよね。

 それとも指先に取り付けられたカーボンブレードで切り刻むつもりなのか、はたまた僕には出来ないよからの首飛ばしでもしたいのかな?


 やれやれ、何れにしろその程度では死なないんだけど、私も嘗められたものだね。

 忘れてないかい、ラトゼリカ?

 その力は私がキミに与えた力だってことを。



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