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第18話 中二病でも○○したい

 懺悔を聞くにしても、さすがに頭を下げっぱなしの状態では本人も喋りづらいだろうから、取り敢えずラトゼリカには頭を上げさせる。

 渋々といった様子だったが何とか受け入れてくれたようだ。

 誠意を見せているつもりかも知れないが、相手に伝わらなければ意味はないし、それどころか逆効果の場合すらある事を彼女は学ぶべきだ。

 現に私は誠意云々を感じるよりも困惑するしかなかったのだから。あまり苛めないで欲しいね。


「あの日、私は襲撃の可能性があったことを事前に知っていました。知っていたからこそ、敢えてクーネリアを私から遠ざけ、襲撃を誘発させました」


「何でまたそんな危険を冒したんだい?」


 語り始めたラトゼリカが、さっそく私の抱いた疑問を解消させてくれる。

 クーネリアが傍に居なかったのは、何のことはない主である彼女の意思だったという訳だ。

 しかし本当に危険な真似をする。

 それは彼女個人ではなく、この世界にとってという意味でだよ。

 もしあの時、私が助けに入ることなく、本当にラトゼリカが暗殺されていた場合、主を失ったクーネリアがどんな行動に出たか分かったもんじゃない。

 最悪暴走すれば、被害はヴァレンティア一国に留まらなかったことだろう。

 魔神に近いとされる精霊は契約を大切にするからね。魔神だって同じ可能性がある。

 現にあの日の真実を知ったクーネリアは強いショックを受けたようで、そんな……と呟いて固まってしまった。

 そう考えると私グッジョブだ。


「それはもちろんアイナ様との出会いを演出するためです」


「うん?」


「アイナ様はご存じないかも知れませんが、ヴァレンティアには初代皇帝時代よりこのような言い伝えがあります。

 黒の森にはそれはそれは恐ろしい魔女が住んでいる。その魔女はヴァレンティア最初にして最強にして最高にして最後の剣であり、不要に近付けば己が身だけではなく、全てを無に還すだろう。故に彼の地を不可侵の地と定め、如何なる干渉を禁ずる、と。

 今では皇族も五大貴族も一部を除いて御伽噺の類としか考えていないようですが」


「エェ……」


 ラトゼリカの語る言葉に、私もまた衝撃を受けて言葉を失った。

 一体アレク達は子孫達に何を吹き込んでいるのか。

 いや多分、国から離れた私に皇位継承争いを始めとしたくだらない政争、また私の力を他国との戦に利用されないための配慮。もっとも半分は悪戯心によるものなのだろうけどね。

 厨二臭が漂ってはいるが、その気遣いは素直にありがたく受け取っておこう。


 けど最初にして最後の剣か……。

 アレク達との別れの際、出来れば自分達亡き後、ヴァレンティアの最後に付き合って欲しいと言っていた。

 一応建国に携わっているわけだし、二つ返事で了承した気がするが、それは滅亡を見届けるのではなく、自分達の理想から掛け離れた場合には、私の手で終わらせて欲しいという願いが込められていたのかも知れない。

 これはあくまでも想像でしかないが、まったく余計なものを背負わせてくれるね。


「それで、キミはその一部に入っていたのかな?」


「はい。地下書庫の奥深くに眠る建国時代の資料の中に残された記述に、建国の礎には初代皇帝陛下と五大貴族の始祖の方々以外に、もうお一方いらっしゃった事を匂わせる部分が存在していました。その方こそが言い伝えに残る黒の森の魔女であり、言い伝えは事実なのだと考えた次第です」


 出来るだけアレク達に華を持たせ、私自身は裏方に徹したんだけど、やはり全ての痕跡を消すなんて事は出来なかったか。

 まあ、探せば当時の事を知るエルフが存命するだろうから仕方ない。


 でもラトゼリカは勉強熱心だね。

 帝都の地下書庫と言えば、ハーレムメンバーの一人だった賢者が創り出した一種のダンジョンだ。侵入者対策として──同じくメンバーの一人だった盗賊の協力を得て──奥に進めば進むほど強力な、というかエグイ罠が仕掛けられていたはず。

 もっともクーネリアを従えている彼女には通用しなかったに違いないけど。


「だから私はあの日、最強の剣と謳われる魔女に力をお貸しいただくために賭に出ました。

 暗殺者に追われていることを大義名分にして、禁忌の森へと足を踏み入れ、そして────」


「私と出会ったと」


 ラトゼリカは頷きを以て応える。


「けどもし私が助けに入らなかったらどうするつもりだったんだい? 仮に暗殺者から逃げおおせたとしても、黒の森に住む魔物達に皇女の肩書きなんて通用しない。その強さは噂に聞いたことぐらいあるだろう?」


 そう、森の魔物達は侵入者に容赦しない。人語を理解する個体も居る、知性の高い個体も居るが、格下だと認識されれば、例え皇女でも幼い子供でも等しく獲物としか認識しない。魔物達は限りなく平等だった。


「その時は──クーネリアには悪いと思いますが──諦めて素直に死を受け入れるつもりでした。彼女が居なければ、所詮私は暗殺者や魔物に命散らされる存在でしかないと」


「我が主、悪い冗談はお止め下さい」


「ごめんなさい、クーネリア。でもこれは当時の私の本心なのです」


 私の問い掛けにラトゼリカは平然と、さも当然かのように答えた。

 表情に迷いはなく、嘘偽りを騙っているようには思えない。


「なるほど、つまり最初から私を利用するつもりだったのか。まんまと乗せられたわけだ。

 だけどクーネリアを従えておきながら、さらなる力を求めるとは中々に貪欲だね、ラトゼリカ」


 自然と険を帯びた私の声に、ラトゼリカはびくりと肩を震わせる。


「はい、だからこそ今さらではありますが、謝罪させていただきたいのです。建国の礎たるアイナ様に対する数々の無礼、本当に申し訳ありませんでした。許されざる身であることは理解しております。ですがもう少しだけ、私に自由をお許し下さい」


 そう言ってラトゼリカは再び深々と頭を下げた。


「いや、責めるつもりはないよ」


 別に私は謝罪の言葉を望んではない。

 自らの命をベットした勝負に勝ったのは彼女だ。むしろ賞賛しようじゃないか。

 私はいつもの悪ノリで彼女に力を貸し与えたに過ぎないが、それでも釈然とはしないのだけど。


 しかし当時僅か九つにしてこの行動力と覚悟とは末恐ろしいね。

 ただ過去に何があったのか詳しくは聞かされていないけど、私にはラトゼリカがひどく歪んでいるように思える。

 それ故にクーネリアとの契約を成功させ、私もまた契約してしまったのかも知れない。


「それで、そうして力を手にいたキミはこれから何をしでかすつもりなのかな?」


 さてここからが今回の本題だ。

 私の問いに掛けに対して、顔を上げたラトゼリカは、よくぞ聞いてくれましたと言いたげに瞳を輝かせる。


「はい、目指すは世界平和の実現です。無益で不毛な争いのない世界を創りたいのです!」


 ラトゼリカは声を大にして答えた。

 停戦はしているが終戦はしていない隣国との火種を抱える国家の姫であり、自らも理不尽によって命を狙われた過去を持つ彼女にとって、それは切なる願いなのかも知れない。

 いや、彼女だけでなく誰もが夢見る世界と言っても良い。

 私だって平和な世界の方が良い。気兼ねなく、邪魔されることなくコタツでゴロゴロできるじゃないか。


 平和を願いながら力を求めることは相反しているように思えるだろう。

 けれど力を求めること自体は悪いことではない。

 いくら高潔な精神を持っていても、いくら崇高なる想いを抱いていたとしても、いくら心揺さぶる言葉を並べたところで、そこに力が伴わなければ意味はない。

 願いを叶えるために、夢を実現するために、何かを為すためには相応の力が必要だった。

 その事実はどこの世界だって変わらない。

 武力、知力、権力、財力、そしてこの世界では魔力。極論だが努力だって、言ってしまえば力の研鑽に過ぎない。

 問題はその力の振るわれ方だよ。

 まあ、そんなことを私がどうこう言えた義理じゃないかも知れないけど。


 だが続く彼女の言葉に私は耳を疑った。

 せっかくのフォローが台無しだ。


「だからその為にも、世界を争いで満たします」


 微笑みながら平然と言ってのけるラトゼリカ。

 うん、どういうこと?

 わけが分からないよ。



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