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第13話 我が名はアイナ、東の果てよりこの地に来た?


 はい、という訳で私は今、ファルメキア平原は最北部に存在する砦の前に来ています。

 周囲を自然の防壁──険しい北部山脈や深い森──に囲まれ、周囲からその存在を隠すように建造された堅牢な砦。如何にも難攻不落という意匠が素敵だね。

 何でも過去の大戦時、軍事物資の貯蔵や保管を行っていた拠点らしい。その為、機密性が高く、味方であるヴァレンティア軍の拠点マップにも記されていなかったようだ。停戦条約が締結された後も、条約破棄による軍事衝突の再開を視野に、潤沢な軍事物資が残されていたことは想像に難くない。身を隠して潜伏するには、まさにおあつらえ向きと言える。


 さあ、さっさとお転婆娘と話をつけて帰るとしよう。

 ああ、何でそんな砦があることを私が知っていて、尚かつ件の第三皇女がこの場所に居ると特定できたかって?

 それはほら、私が与えた力に彼女の位置情報を確認できる類の機能が備わっていたからだよ。どれだけ離れた場所に居たとしても、生存しているなら簡単にストーキングできてしまう。彼女には悪いけど授与者権限とでも考えて、そこは諦めてもらうしかないね。悪用する気はない、というかそもそも今まで存在すら忘れていたんだから悪用のしようがないんだけど。

 あとついでだから、私がギルドからこの砦に辿り着くまでの過程を簡単に説明しておくとしようか。


 馬を用意しようという申し出を断わり街の外へ。

 使い魔召喚してライドオン。

 モフる、それはもうモフり倒す。

 目的地に向かう途中で野盗に襲われている馬車と遭遇するが無視。

 砦の前に到着←今ここ。


 うん、特に語るような事はなかったね。道に迷うことなく目的地に着いた、それだけのことだ。

 え、端折りすぎている、もっと詳しく説明しろって? 特に後半部分?

 おかしいな、これでも詳しく説明したはずなんだけど。一体何が問題なのか、私には分かりかねる。分からないったら分からない。大事なことなので(以下略。

 まあいいや、もう少し詳しく語るとするよ。


 帝都クルキセスのギルドで過去の清算を快諾した──せざるを得なかった──私に、ローレシアは馬の用意を申し出る。

 当然、私はそれを即断った。馬を操るには少々体格が足りていないし、何より自分で走った方が速いんだから仕方ない。もっとも疲れるし目立つから、そんな気はさらさら無いのは言うまでもないね。

 なら大人しく馬車に乗れよと思うかも知れないが、そうすると行者や世話人を付けるなんて言われてしまう。もし有事が起こった際、正直言って足手まといにしかならない。というのは建前で、知らない人が長時間近くにいることが耐えられないのが本音だ。


 そこで逃げるようにギルドを後にし、街の外へ出てた私は使い魔を召喚することにした。

 転移魔法で直接乗り込む方法もないわけじゃないけど、色々と制約が多く、膨大な魔力を消費してしまう。いや、魔力に関してはいくら使っても問題ない。ただ術式の構築だとか手順が面倒だから仕方がないよね。

 そんな怠惰な契約者マスターで申し訳ないが、呼び出された使い魔は恭しく頭を下げた。

 今回私が呼び出した使い魔を一言で言い表せば巨大な狼。その鋭い顎は簡単に私を丸呑みできるほどだ。

 神話の大狼=フェンリルのイメージから名付けた名前はリル。何とも安直だが、本人(?)は気に入ってくれているようだし、中級の亜神位ながら噛み砕ける能力を持っているので強ち的外れってわけでもない。

 さすがにその巨体は目撃者が多ければ問題になりそうだけど、その時はその時に考えよう。例えヴァレンティア軍が動いても、聖騎士が派遣されても、ギルドに依頼があって討伐隊が組まれたとしても結局は彼等の徒労に終わるだけだからね。


「よろしく頼むよ、リル」


 私は軽く鼻先を撫で、その背に飛び乗った。

 私がリルを呼び出したのには、いくつか理由がある。

 まず第一に私を乗せても問題のない体躯があること、第二に移動速度が速いことが上げられる。でもこの二つに関しては、ほぼ全ての使い魔が該当するかも知れないね。すでに成長の止まった私の身体はコンパクトだし、一部の特化型を除いてみんな敏捷性の高い機動重視に育てている。

 そんな中でリルを選んだ最大の理由が、使い魔の中で一二を争う毛並みの良さだ。艶、柔らかさ、ボリューム、手触り、温もり。その全てにおいて高級絨毯や高級毛布を凌駕するクオリティーを誇る。他者に自慢し、過去の自分を褒めてやりたいほどに。

 それはもう、もふもふなんだよ、もふもふ! もっふもふもー!

 うっとりとその背中を満足するまで撫で回し、手をワシャワシャ動かし、首筋に抱き付いては頬ずりを繰り返す。

 ああ、癒される。そう、私はこの殺伐とした世の中に癒しを求めていたんだ。アニマルセラピー最高!

 自分の背で傍若無人に振る舞う私に対して、リルは嫌がる素振りを見せることも、抗議の声を上げることなく、仕方ないなぁと言いたげに目を細めて受け入れてくれる。何て主人想いなんだ、可愛いじゃないかこいつめ。もふもふ。

 例え雪山で遭難したとしても、リルが居れば凍える事はない。いや、どうせお前なら凍死しないし、最悪転移魔法で帰れるだろなんて野暮なことは言いっこなしだよ。


 十分に堪能して満足した私は上体を起こし、周囲に視線を向ける。怖いぐらいの速度で景色が流れていくが、まるで揺れや風圧を感じない。もちろんそれには理由がある。この世界では使い魔に騎乗時、マスターに対して加護という名のボーナスが与えられ、揺れや空気抵抗、温度変化など騎乗時におけるマイナスの影響を軽減してくれるんだよ。

 その為、手綱や鞍などを必要とせず、乗馬経験のない私でも簡単に使い魔を乗りこなすことが出来るというわけだ。さすが異世界、ご都合主義はこうじゃないと。

 おかげで国民的アニメな獣のお姫様の気分を存分に楽しめる。山犬じゃないけど。


 しかしこの世界、使い魔契約と召喚魔法の線引きが割と曖昧だったりする。一応一般的な区分としては調伏した魔物などを力で支配して従わせ、意のままに操ることを使い魔契約。何らかの代価や代償を支払い一時的に力を借りることを召喚魔法と呼んでいる。

 どちらにしろ対象を呼び出すには非常に多くの魔力や、それに代わる魔石と精神力が必要だった。

 故にこの世界で召喚師を生業とする者は極めて少なく、エルフを筆頭として前世ではマイナー職だった精霊使いの方が多いらしい。

 でも最終幻想を愛していた身としては、やっぱり召喚獣による広範囲攻撃とかには憧れを抱くよ。神竜種な知り合いに頼んだら、案外簡単に召喚されてくれないかな? 今度頼んでみようか。


 閑話休題。

 さて、などと結構どうでも良いことを考えていると、視界に馬車とそれを取り囲んだ野盗風の男達の姿を捉える。というか野盗そのものだろう。よくある絶体絶命のピンチってやつだね。

 馬車は如何にも貴族や商人が使いそうな装飾の施された豪華な仕様で、こんな治安の悪い場所では狙って下さいと自己アピールしているも同じ。少しは頭を使えばいいのに……。

 しかも厄介な事に、車体に描かれているエンブレムはヴァレンティアの物ではなく、お隣はエルドラード王国の物。

 街道から大きく外れ、護衛の姿もないことから考えて、野盗に追われている内にヴァレンティア側まで来てしまったのかもしれない。まあ休戦中とは言え、経済活動や民間レベルの交流は普通に行われているので、不法入国だの何だの騒がれることはなく、状況が状況だからヴァレンティアが助けてくれるだろう。周囲に人が居ればの話だけど。

 そう、残念ながらこの場に存在する第三者は私しか居ない。

 どうしよう?

 いや、選択肢はすでに決まっていた。

 かつて聖女と呼ばれた私の前に助けを求めている人がいるんだよ。

 だから私はすぅと大きく息を吸い込み、声を張り上げて告げてやる。



「押し通おおおぉぉぉぉぉる!」



 え、助けに入らないのかって?

 だって明らかに見えている面倒事のフラグじゃないか。

 フラグ処理の途中でフラグを立てるなんて器用な真似は、異世界召喚テンプレ勇者様にでも任せるよ。

 私は素敵に無敵なバグ幼女様なんだからさ。




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