プロローグはイメージです、実際の(以下略
時代の転換期には他を圧倒する能力を有する者が台頭し、善行にしろ悪業にしろその力を以て歴史に名を刻む。
人々は彼等を英雄と呼び、また狂人と誹ることだろう。
そしてまた一人、青年が舞台に上がる。
彼は神から使命を授かった使徒と呼ばれる存在。
その力は大国の軍すらも一蹴する程に強大であった。
数えきれぬ屍を築き、多くを失い傷付きながらも、苦難の先に辿り着いた約束の場所。
名だたる王が望む舞台に立ち、そこで彼は自らに課せられた使命と対峙する。
内なる声が呪いのように囁き、本能が警鐘を鳴らすかのように叫んでいた。
目の前の存在を斃せ、と。
「ああ、分かっている。分かっているさ」
彼自身も理解していた。否、嫌でも理解させられたというべきか。
対峙する存在が過去に刃交えたどんな相手をも、容易く凌駕しえる力を有している事実を。
だがそれでも逃げることなど許されない。
だから彼は自らの使命を全うする。
今こそ命を使う刻だ。
躊躇いなどない。
後悔などない。
故に迷いは存在しない。
「最初から全力でいく!」
青年は己が全てを懸ける。
過去も現在も未来も全て。
そんな主に応えるかのように、彼が手にする聖剣は輝きを纏う。
命を力に、魂を力に、記憶を力に、想いを力に。
青年は代償として全てを失い、対価として力を得ていく。
何かを失う度に彼は種としての枠を越え、存在としての格を上げる。
その先に待ち受けている結末が、例え己の消滅だとしても……。
青年は咆哮を上げる。
すでに恐れや興奮を抱く心は力へと捧げたはず。
ならばそれは消えゆく魂の残照、肉体の細部にまで宿った強き意志の成せる業なのかも知れない。
床を蹴った瞬間、青年は一陣の風と化し、輝く剣が極光の尾を引きながら、人智を越えた速度で対峙した相手との距離を零にする。
彼が己の全てを懸けた必殺の一撃は魔王と呼ばれる存在すら斬り伏せ、神にさえ届く可能性を持っていた。
その光景を目にした者は、彼の勝利で舞台は終演を迎えると疑いを抱かなかったに違いない。
それ程までに圧倒的で、幻想的な光景であったことは間違いない。
振り下ろされた極光を纏った刃が、青年の動きに対応できなかったであろう相手の、その無防備な肩口を捉え、容赦なく袈裟懸けに切り裂く。
そのはずだった。
刹那、静寂の中に何かが砕け散るような音が響く。
「あ」
「え?」
それは誰が零した呟きか。
己が全てを懸けて強化した刃が、相手に触れた瞬間に砕け散った事実を受け入れる事が出来ず、呆然とする青年の身体が無慈悲にも光の粒子へと姿を変えていく。
一方、薄皮一枚傷付くことのなかったもう一人の当事者は、何とも気まずそうな、それでいて本当に申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「あの、その……、何だかゴメン」
謝罪の言葉が果たして届いたのかは疑わしいが、あまりの理不尽な現実に二の句を告げる事すらできなかった青年は、やがて完全に光と化して消えていく。
そして光の粒子が漂う空間に一人残されたのは、麗しいとさえ形容できる容姿の幼き少女。
愁いを帯びた表情で光の中心にたたずむその光景は、皮肉にも御伽噺の一場面を思い描かせる幻想的な美しさを感じさせるものだった。
そう、間違いがあったとすれば、彼女が魔王でも神でもなかったことだろう。
彼女は自らをこう定義している。
全てを超越する存在、すなわちバグ幼女、と。




