放課後の徘徊
いじめ。忌み嫌われる者。
いつの世も、どこであろうと、絶えることはない。人間の業、或いは宿命と呼んでもいいかもしれない。
*
その日、俺は放課後の校内をうろうろしていた。部活も休みだし、かと言って家に帰る気もせず、どこかに繰り出す気分でもなかったから、校内をうろうろしていた。
あまり人気のないところを通り掛かった時だ。外から人の声がした。
数人の女子が、一人を取り囲んでいた。へたりこんでいる一人に対して、言葉の暴力を振るっているようだ。
廊下の開いている窓からしばらく眺めていたが、誰も俺に気付かない。そこで声を掛けてみた。
「お前ら、何してんの?」
取り囲んでいた奴らが慌てて振り返る。なんだ面白い連中だな、一様に驚いてるぞ。
「しょうもねぇことしてないで、家帰ってクソしてさっさと寝ろ」
リボンを見る限り下級生なようだ。俺のネクタイで上級生だとわかると、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
何こいつら?なかなか面白いな、などと考えていたら、声を掛けられた。
「助ける気があるなら、もっと早く助けなさいよ」
どうやらへたりこんでいた子はまだ残っていたようだ。この子も下級生だ。
「別に助けようとした訳じゃないからな。義憤や博愛主義でもなんでもない」
「…最低。痛!」
立ち上がろうとして、その子が崩れ落ちた。どうやら足が痛むようだ。
「なんだ、足でも痛めたか?保健室寄ってから帰れよ。じゃあな」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
慌てたように俺を呼び止める下級生女子。
「か弱い女の子が怪我してるんだから、手ぐらい貸しなさいよ」
「え?やだ」
「な!?何でよ!」
「言ったろ。お前を助けようとしたわけじゃないと。そろそろ帰る。じゃあな」
「あ〜わかった、わかったわよ。保健室まで連れていって下さい。助けて下さい、お願いします先輩」
「仕方ねぇな。ちょっと待ってろ」
仕方なく窓から外へ出て、下級生女子へ近付く。そして…
「きゃあ!なにすんのよ!」
「なにって…お姫様だっこ」
天地神明に誓って、120%の確率で、お姫様だっこである。
「なんでそうなるのよ!スケベ!変態!痴漢!」
「…そこのビオトープに落としてやろうか?」
「や、やめて!私が悪かった!だからそれだけはやめて先輩!ごめんなさい、謝るから!」
「…とりあえず保健室まで連れていってやるから黙ってろよ」
「…わかったわよ。だ、だけどこれすごく恥ずかしい…」
そう言った下級生女子は赤面している。なかなかウブな反応、ごっつぁんです。
*
さっくり保健室へ連れていき、保健医により手当てを受けた下級生女子。先生から頼まれて当女子の鞄をとってきてやった。ついでに自分のも。
「じゃあな、俺は帰る」
「ああ、先輩ちょっと待って!」
「なんだ、スタム?」
「誰がスタムよ!あんな厳つい元オランダ代表DF呼ばわりするな!」
「おお、ナイスツッコミ。しかしいい選手だった」
「ええ、それは認めるけど…って違うわよ!」
「だからなんだ、ヤンカー?」
「だからそれは元ドイツ代表FWじゃない!…落ち着け私!……先輩、私を家まで送って下さいお願いします。」
「え?やだ」
そこで一人爆笑していた先生が口を開いた。
「送ってあげなさい。彼女の足、まだかなり痛むみたいだし」
マンマミーア…
*
住所を聞くと、俺ん家に近かった。ちょいと寄り道をしたと思えば、大したことじゃない。
下級生女子の自宅まで歩いて20分。その間当女子は俺の腕にしがみついたまま、一言も話さなかった。
「ここが自宅か。義理は果たしたから俺は帰る。じゃあな」
「ああ、先輩ちょっと待って」
「なんだ?」
足を止め、振り向いた。そこで固まる俺。
「送ってくれてありがとう先輩。遅くなったけど、私の名前は笹井夏紀です」
満面の笑顔、だった。こいつの笑顔、すげーかわいい。
「どうしたの、先輩?」
「お前の笑顔に見惚れてた。俺は冬木秋彦」
「なっ!」
赤面したまま固まる下級生女子改め笹井夏紀。
「ま、お大事に。さらばだ」
再度帰りかけたところで。
「…ああ、先輩ちょっと待って!」
再度止まって振り返る。
「ねぇ、先輩家近いんでしょ?図々しいのはわかってるんだけど…あの…その…」
仕方がないな、こいつ。
「わかった、明日の朝迎えに来てやるよ」
「本当?ありがとう」
やっぱり笑顔はすげーかわいい。反則だ。
とんだ放課後だったが、まあ、これはこれでありだったな。
読んでいただいてありがとうございます。拙い文章ではありましたが、少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。
個人的にはデカくてゴツくて厳ついサッカー選手が大好きです。スキンヘッドならなおのこと。少々前のお方々ですが。