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セカイの呪いをこの身に  作者: 早変わり
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慈悲を

痛々しい描写があります。上手く書けませんが…

 組み立て式のサイコロのようなこの部屋は、ある音が、休憩時に聞く人々の陰口のように淡々と繰り返されてはとまった。

 一般のキッチン並みに小さい子の部屋には、窓もなければ台の上に乗せられた寝床もない。この部屋の四分の一を占めるテーブルの上には群がる蛇のように回線コードがウジャウジャと這い、その回線の先にはケータイ端末ゲームテレビノートパソコン…と小学生だったら自慢ができるだろう数々。高3になった今は全て使用しきれない。


 俺は何度目かわからない息継ぎ(・・・)をする。自身の視界右側に目を移す。午前3時。

 両手を上にあげ、この窮屈な部屋の中で背伸びをする。俺にはこの夜ふかしを注意する青毛の電脳少女もいなければ、心配する姉貴や妹がいない。いるとしたらそれは、言うことを聞かない息子に呆れて出せる分だけお金を与え、ほかは放置する両親と、素直になれなくて彼女がいない歴イコール年齢という言葉が似合う、ぼっち予備軍の弟くらいだ。兄貴にその晴れ姿を見せるという思考はないのだろうか。自身がどうこう言う立場でもないが、なにか自慢しに兄貴の部屋を訪れてもいいだろうに。

 蛇のようなコードから遠ざけておいた飲み物をゆっくり食道に流す。冷めてしまったようで、中身のコーヒーが不味くなっている。最悪だ。。

 既に砂嵐になったテレビを消し、もうしばらくは使わない電子機器の電気を落とす。

 隣に設けた自分の寝床に横になり、午前3時45分。

 明日学校行きたくねえ。


 _________



「おはよう。」

「ああ、えっと…佐藤サンで合ってる?うん。おはよう。」

「えっと…佐藤じゃなくて山田です…。」

「ああ、うん。ごめんね。鈴木サン。」

「えっと…」

 斜めしたから聞こえてくる挨拶に適当に応え、目線は最新のゲーム機器だ。誰がなんと言おうとこの目は離さない。

 そこらへんでよく聞いたような声がほかの方に向いたようで、肩の力を抜く。ちょうど歩くことと対話するという行為に意識が向かってしまいいつもなら当たっているはずのリズムゲームも外れてしまった。今なら力んだ大声で「ふざけるなァァァァ!!」と言える。喉が潰れるかも知れないが。

 目の周りの肉をほぐし、ゲームをしまい行く先を目視する。


 俺は私立高校2年生だ。花の高校生だ。ちゃんとバイトもやっているし、勉強もしている。何をしているかは秘密だ。ちなみに、恋愛フラグの立つような女子の幼馴染はいない。男子の幼馴染は無論いない。

 ちなみに俺は嫌われている。それは本人である俺でさえもはっきりと言えるほどわかりやすく嫌われている。それを知る方法も様々だし嫌がらせもこそこそせずあからさまに分かる。下手な子供が書いた主人公が嫌われ自殺に追い込まれるような、そんな病んでいる小説でも大人がわかるようにあからさまにはやらないだろう。

 この前先生にバレて職員室に呼び出されたときはポーカーフェイスがジェンガのように崩れるところだった。

 自分の席に座り、宿題を終わらせて午前9時。朝のホームルームも終わり女子の魔女のような笑い声や男子の地を這うような声を遮断し、一日の授業の準備をする。そういえば次の授業は男女に好評のある先生だ。

 出てるところは出て締まるところは締まる。女子にとっては憧れの体型のようだし、男子にとっては彼女に欲しい理想体型であると同時に両手で弄びたい性格と体つきだ。俺も男子の端くれであるから弄んでみたい。まあ、ノベルやアニメによくいるだろうありきたりな先生だ。


 まさにいい子ですよと体全体で訴えるように体制を整えて「いざ、参る!」と両手を机の上にセットするとグワンと揺れるような頭痛が起きた。

 花瓶の割れる音、優勝トロフィーが黒板の上から落ちる音。黒板消しも誰かのものかもわからない筆箱もノートも化粧品らしきものもゲーム機も、ちょうど大急ぎで走って入ってきた先生も。悲鳴も落ちるかのように大合唱を奏でる。短調のようでこれは長調と見た。

「地震です!皆さん、急いで机の下に潜ってください!」

 地震。聞いたことはある。

 何年か前に東日本大震災でマグニチュード12だかなんだかを観測し、膨大すぎる被害が起きた。死者も行方不明者も未だにおり、それは世界に響きわたった大事件だ。

 しかし、悲しいことに実際その地震が起きていない地域はニュースを見ない限りもう忘れてしまったであろう。ある日ある時間に合掌をするが数日後には自分たちには関係がないと忘れてしまうのだ。それは当然であり、逆にいえば仲間意識があまりないともいえよう。他人にいちいち仲間意識を向けるほど、人間のお頭は残念にできていない。

 なぜ、この地域で地震が起きるのだろうか。

 いろんな物が目の前に落ちてきて、とりあえず目を瞑る。



 ___無音になった。

 まるで深海に潜ったかのように、夢を見ているように。

 目を開ける。

 そこに教室はなかった。何度もどこかでみたことがある、都会の街並みだった。

 …たしか、渋谷。ある銃ゲーで深く関わった土地だ。

 その大きい交差点の真ん中に俺はいる。周りには人も、猫も、鳥もいない。

 宣伝するための大きいテレビのようなものは何も移さない。

 太陽は左右に歪み、雲は去り、空気は過呼吸になってしまいそうなほど息苦しくてとても酸素を交換できにくい空間だった。

 少し震える自身の手をゆっくり見つめる。骨ばっていて女性の手とは明らかに違う己の手。軽く握り、ちゃんと感覚があるか確かめる。学ランのボタンを上から少しだけ開けて、心臓がちゃんと動いているか確認する。そしてポケットに朝入れたものと同じものが同じ数入っているか確認する。そして頭を触る。俺は生きているらしい。

 俺はとりあえず駅に向かう。駅員や駅の中の店に店員はいるだろうか。いたのなら、このなにかが違う世界(・・)のことを教えて欲しい。教えてくれたら、次は帰る方法を探そう。ここには東日本大震災で行方不明になった人達がいるかも知れない。いなくても地震関係でここにたどり着くであろう、または何らかが起きた時にたどり着く渋谷(・・)なら、元からここに来ていないから、生存者として人間が住む下までたどり着けた人達ならまだしも、ここから生きて帰って来れるのか。確率は分からないが、とりあえず人を探して情報を聞くんだ。

 そうなるべく前向きに計画を立てるも、それはある店のガラスを覗けば一瞬で後ろ向きになった。

 それ(・・)はそこにいた。形容しがたいそれ(・・)

 魚に見えれば、タツノオトシゴのようにも見える。とりあえずそれ(・・)にはいろいろなものがないと、俺でもわかった。

 目玉がない。肉がない。まず脳に位置するであろうそこは中身ごと綺麗に覗かれ、体内がまるで地上に打ち上げられた深海魚のようにむき出しに見える。見えてしまう。守る内蔵もそんなにないように見えるし、それ(・・)は約9割ほどが骨にしか見えなかった。それしか見えなかった。

 深海のように、太陽があまり射さないこの場所でそいつら(・・・・)はその白い骨を発光させて、薄く青白い炎を灯し、クラゲのように佇んでは飛びはねたり、背骨をくねらせて右往左往しながら泳いだりと不気味な水族館でも見ているような気分だった。

 来た道を全力疾走で駆ける。ここに人はいない。さんざんゲーム脳とからかわれ自覚もしている俺が言うんだ。ここに人はいない。

 根拠はない。でも、生きてる可能性の方がきっとずっと低い。ここで何年も住んでいられる精神は女子供にはないだろうし、叫ぶやつをなだめたりするのにストレスが溜まって最終的には…みたいなのもいるのかもしれない。それかゾンビのようにあいつらにどこかを噛まれ、あいつらの仲間になってしまったか。

 しかしあいつらは人間の形ではなかった、だからまだ正気でいられた。血に濡れた内蔵は中学か小学だかで行った解剖実験で見たことがあるからまだ大丈夫な方かも知れないが、人間の体のものをここで見たなら俺はどうなってしまっただろうか。想像もしたくない。


 _____


 駅から出てしばらく走る。

 交番のようなものが見えてきて、俺はとりあえずその交番が見える位置に手を置き、動悸を抑えようと理科と保健体育の知識をできるだけ思い出して、できる限り調子を整えようと胸に手を置いた。

 空はこれ以上明るくなることを知らない。そこは本当に深海のように暗くて、周りには霧が立ち込み道路を挟んだ向かいの建物は余裕で見えるが、その向こうとなると目を細めてもあまり見えない。まるでここは学校で感じる孤独のようだった。

 あまり周りが見えないからと、ここは渋谷だからなにか明かりになれるようなものはないかと交番を目印に周りの店をまわったが、シャッターが閉まっていたり裏口に鍵が掛かっていたりで入れそうにもなかった。

 そこで、もっと探索範囲を広げてみようかとさきほど見た骨のような生きているのかも怪しいその生物たちを頭の隅に置きながら交番内の地図を睨む。

 交番は何故か開いていた。これは良いと中を探索したがスタンガンや拳銃の弾など、入ってていいのかと少し疑わしくなってしまうようなものが入っているのになぜか懐中電灯はなかった。ランタンはもちろん、ライターも、マッチもだ。

 おそらくここには人間がいたのではと予想を立てる。万引きを起こさないようにと店を持つ人がシャッターを閉めたとしたら、なぜ駅の方も閉めないのか。あそこはとても開放的でおそらくあの骨たちが荒らしたような形跡がいくつもあった。つまりあそこまで手がまわらないかあるいは怯えて閉めることができなかったかだ。もし後者ならあの骨たちは少なくとも好戦的であり、あそこで俺はすぐ逃げていて正解になる。ほかの店は閉めて交番だけ開いているのは、交番にはこのように変なものも混じってはいるが一応武器があるため開けているのだ。そしておそらく、俺のような人のためにわざわざ鍵をかけていないのだろう。

 とりあえず手元にはバックのような便利なものはないので、ロッカーを荒らさない程度に調べて警棒入れなどが付いたベルトを探す。なかった。

 銃は持ったり発泡するときに負担がかかるので却下。それにスカスカの骨に命中したとしてもそのまま貫通しそうだ。背骨が真ん中で割れて片方が落ちてもそのまま動きそうだ。それに命中できる自信はない。

 結局どこにも入れず警棒をそのまま持って探索することにした。地図はおそらくいらないだろう。


 腕を中心に準備運動をし、もっと奥へ進む。

 チラチラと骨が見えてきた。しかし駅にいたものとは違う。こちらはどちらかというと鳥のような気がする。鳥の標本などは見たことがないが、羽の骨のようなものが見え隠れするのだ。相変わらず頭はないらしかった。

 それに、この鳥たちは夜目がよく効くようで、さっきからずっと俺のことを見ている。ときどき首をかしげたり別の方に向いたりちょこちょこ飛んだりするので俺はビクビクしながらその鳥たちをみていたのだが、1つ分かったことがある。

 この鳥たちは俺が()だと分かっていないようだ。なぜなら顔_のようなもの_がこちらに向いているにも関わらず、飛んで着地したそこは距離感が掴めていないのか俺には当たらずに俺より少し手前にある地面を思いっきり啄いたり、さっきまで俺がいた場所に向かってなにか声を発したりしていた。それはまるで「目がとてもいいのにも関わらず、その情報をあたまで処理しきれていないイルカ」のようだった。この鳥たちに頭はないが。

 これだったら警棒で叩かずとも渋谷の探索は終わるだろう。ここの世界には太陽があるようだがないにも等しいので現在が日中だとは思えない。疲れたら寝るということになるだろう。夜に探索するのはゴメンだと思っていたが24時間ほぼ夜のようなここじゃそれはどうでもいい問題の一つだったかもしれない。とりあえず睡眠は疲れたら取ることにしたが寝床は正直どこでもいい。身の安全が確保できればそれでいい。

 ある角を曲がると突然一匹の鳥が何とも言えない奇声を発して飛び立ってしまった。それを聞いた他の鳥も次々と飛び立つ。まるでそれはなにかの前触れのように感じた。

 近くの細道に入り身をかがめると頭上で爆発音がなり、渋谷全体に響き渡った。瓦礫が上から降ってくる。

 何かが衝突したのはわかった。だが、その何かが骨か人間かだ。

 だがしかし、その疑問もまもなく解決するだろう。

 音が出た方を見た俺はいやでもそれが視界に入った。


 10割を骨が占める。まるで今まで見た魚や鳥の長のような骨だった。その骨には目を凝らすと微かに日本語でも英語でもない文様が黒字に浮かび、その立ち住まいは全身から「自身には意思がある」と主張し、凛々しくまるで人間のようだった。肋骨も腕も尾てい骨も足も大方の骨が空を浮いていたのだ。しかし、その骨はどうしても鼻から上の頭がなかった。刃物で切られたかのように綺麗に上からないのではない。そこから上がどうしても見えない(・・・・)、そしてそれは全身から浅瀬のような青い炎が轟々と燃え滾っている。

 その骨は腹からそこへ吸い寄せられるように移動し、爆発音にも似た音が巻き上がったそのビルに近寄った。

 俺は心の底という底から冷気が漂うような感覚を感じた。安心できない。隙を見せてはいけない。逃げろ。殺されてしまう…

 あいつは、絶対的存在。

 S字のように、気持ちがいいくらいカーブしている背骨。佇むその骨は音の元にたどり着くと同時にその見えない頭が、歪んだように見えた白(・・・・・・・・・・)により砕かれ、破片が落ちる。残ったのはヒビの入った肋骨から下だった。

 建物が壊れ、上から落ちてくる。壁際にスパイダーマンのように張り付きその骨を見ていたのは、肉の代わりに水が骨中に張り巡らされたトカゲのようなものだった。

 地を這い背筋を凍結させるような唸り声をあげ、その水トカゲは骨に飛び込んだ。

 骨はそれを左の拳で受け止め速度をおとし、片足で天高く舞い上がった。

 水トカゲはそのまま天高く舞うと、しっぽをプツンと切って太陽とは反対側の方向に逃げていった。逃げる際に、この世界の水があの水トカゲのもとに行き、世界に酸素と明るさと置いていった尻尾が残る。

 青がかるこの日差しは、あたっていてそんなに辛いようなものでもなかった。扇風機に当たっているかのように心地がいい。言い方を変えれば肌寒いともいう。

 あっけにとられてぼーっとしていると、さきほど水トカゲと対決していたようだった骨がこちらと目があった気がした。

 その瞬間。どこからともなくそれとは違う小さい骨達が俺を目指して襲いかかってきた。

 突然のことにびっくりし、しばらく動けなかったが、片足の肉を一口啄まれたときは何をしなければいけないか、今の状況を理解した。

 食べられる。

 こいつらは主人であるあの人間にも似た骨の分身かなにかだったのだろう。主人が戦っていたから不安定だったのだ。いま調子が戻り、いつもの好戦的なものに戻ったのだろう。

 警棒を振り回し追っ払おうとするとその警棒が砂となり崩れ落ちた。

 よくみると周りの建物も歪んできている。

 ここはあの水トカゲの縄張りであり、それがそこの骨等に奪われたから、形が保てなくなってきたのだが、俺がそれを理解するにはあまりにも情報が少ない。

 殴って応戦してみるが、数が多すぎる。肉は食べられ続け筋肉もむき出しになり、自分の骨が、見えてはいけない骨が見えてきた。

 服の上からご自慢の嘴でつつき、1円玉ほどの大きさの傷跡が数えられないほどに出来上がり、それでもその上から何度もつつくものだから、筋肉にも傷が付いたようだ。力が入らなくなった。あまりの痛さに顔を歪める。

「てめぇら、もうやめろよ!!」

 慈悲欲しさに奇声にも似た大声をあげると、容赦なく喉を抉られた。

 痛さに視界が滲み、悲鳴を上げようにも音が出ない。声が出ない。なのに息ができる。

 肉を啄み骨をつつくあいつらに「俺は被害者だ」と訴えようにも空気は途中で途切れた器官から外へ行く。慈悲が欲しい。


 …あの骨どもはいつの間にか全て去っていた。あれからどれほど経ったのだろう。

 足はもう筋肉が存在しなかったかのように骨だけがのこり、内蔵はお腹からはみ出て地面につきそうだ。腕はもう持ち上がらないし、それとは違う片腕は重点的に狙われ、気いた時には外れて奪われてしまった。血が一滴も出てこないのなんて問題にならないほど痛くて、なぜこんな目に遭わないといけないのかと納得できなくて、溢れる涙を止めず流した。生きてる心地すらしなかった。でもまだ死にたくないと思う俺はおかしいのだろうか。

 ゴツゴツした骨で首をつかみ持ち上げられる。長のような気高さのあるあの骨だった。半分もあいていない俺の目を反対の手で覆い、目を閉じさせた。

 その手つきは優しかった。両目から溢れる涙をぬぐい、まぶたの上から目を優しくなでる。優しくされたのだとわかる。ぬくもりはないがたしかに手つきが優しい。何かをされるのかとばかり思っていたのだが、痛みから解放されるのならばそれだけで十分だった。

 体の有無よりも痛みから解放されたかった。

 しかし、次に起きたその行為は「助けられる」と期待していた俺の心をどん底にまで落とした。



 ___  君の目をもらおう  _____



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