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センチメンタル・ドライバー

 ちょっとだけ閲覧注意、です。



 ああ。このままアクセル踏みこんで。

 いっそ灰になって。

 風に散らされたい。



 ゆくえはしらない。

 いつまで走ればいいのかわからない。



 だれもがだれかの監視者で。

 同時に監視対象者。

 せいぜいが。切符を切られないよう小さく息をするくらい。



 信号を守り。

 速度を守り。

 カルガモの親子に道を譲り。

 優良ドライバーの鑑となる。



 清廉なんていつの時代のコトバだよ。



 昨日、嫌な汗が背筋をつたったのはババアの逆走のせい。

 今日、やたらムカつくのはケツにぴったりくっついてきやがるクソヤローのせい。



 マスクの裏で中指立てながらきみを想うよ。



 会いたい。

 ガソリン臭いシャツぬいで。

 きみと眠りたい。



 そして今夜も。

 ドライブインのおばちゃんがエロくてたまらんです。




 ああ。カーブからジャンプして。

 ふたりで月までランデブー。

 うさぎ達とくるくる踊るきみ。

 めいっぱいキスしようよ。



 まっ黒い目は星々を映し。

 まっ白い肌は月光を浴び。


 ただ。


 月の女神の微笑みに手をのばす。


 でも。


 ガシャリと鳴ったシートベルト。

 対向車のヘッドライト。

 せまい車内で貼りつけにされた自分。



 ライトに刺された目が痛い。


 ろくに身体も動かせない。



 現実という日常。

 日常という現実。



 近道しか選ばないヤツ。

 脇道にそれて吐いてるヤツ。

 てめぇじゃできねぇことを他人に平気で強いるヤツ。

 ただただクズなヤツ。



 炎上がどーした。醤油とワサビ持ってこいよ。ぜんぶキレイに平らげてやるから。



 煽って。煽られて。煽る。



 昨日、泣きたくなったのはボンネットから火を噴く車の後部座席の女の子と目が合ったせい。

 今日、こんなに嘔吐くのは昨日の女の子がきみに似ていたせい。



 煽り。煽ってくる。煽って。



 もうどれくらい雨はやんだままだろう。

 そのくせエアコンからはカビ臭い冷気。



 だから。


 だからさ。



 さっきの合流、ムリに入りこんできやがって。

 ブレーキ踏ませやがって。

 開けたばっかの缶コーヒーがこぼれてマット汚れたじゃねーか。



 だから。


 アクセル踏んでやったよ。



 痛い。痛い。

 目が。女の子の目が。

 閉じても閉じても追いかけてくる。



 唇が。きみの唇が。

 開けても開けても吸い足りない。



 まぶしい。

 まぶしいのはもう夜だからか。

 夜なのにまぶしいのか。



 “黄昏時は早めのライト点灯を心がけましょう。

 夜に目がなれていないので注意しましょう。”



 右に。左に。

 ウィンカーはどちら。

 上るか。下るか。

 ナビのお気に召すまま。



 ただ走る。

 なんにもない。グレーの道を。

 テールランプが滲んでも走りつづける。



 そして今日も。


 うどんの出汁がしみたベンチで月を見上げきみの夢をみる。




 ああ。このままアクセル踏みこんで。

 いっそ灰になって。

 風に散らされたい。



 ゆくえはしらない。

 いつまで走りつづけるのかわからない。



 そして明日も。



 猫の顔したAIに叩き起こされる。






 

 

 

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