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切り傷

 


 ゆびが切れた。

 マニュキユアよりもあかい血。

 ほそく走った線から。

 じくり、にじんだ。

 

 わたしのじゃない舌がわたしのゆびさきを吸う。

 チクリ、いたんだ。

 あかい舌をきようにしまって。

 わらいながらあなたは言った。

 

 “だいじょうぶ。深くはないよ”

 

 そうかもしれない。

 そうじゃないかもしれない。

 

 だって、いたいもの。とてもいたいもの。

 

 

 ゆびが切れた。

 くちべによりもあかい血。

 凍った風が。

 はだを裂いた。

 

 わたしをうつすちゃいろの目はわたしだけをうつしているわけじゃない。

 チクリ、いたんだ。

 ちゃいろの目をきように隠して。

 あなたはわたしの手をとった。

 

 

 そのこころでだれをおもうの。

 そのうででだれをだくの。

 そのくちびるで。

 だれを。



 しってたよ。ちゃんとしってたよ。

 なのにね。

 わたしのじゃない香りをまといながらわたしをだくあなたを。

 なのにね。



 ゆびが切れた。

 あなたの舌よりもあかい血。

 いたいと、わたしがいうまえに。

 あなたは言った。

 

 “だいじょうぶ。深くはないよ”


 舌でくちびるを舐めながら。

 

 あなたは言った。





 

 

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