指折り
「GW、どうすんの?」
教科書やらノートやら貸してたマンガやらをカバンにほうりこんで、さて帰りますかと立ちかけたときお隣くんから話しかけられた。話しかけられたであってるよね?
お隣くんは机にアゴのっけて教卓を見てる、ような見てないような。だらーんってイスからずり落ちそう。ホームルームのとき先生に叱られた姿勢だ。叱られてたときよりなんか、ぶすーってしてるようにも見えるけど。
金曜の放課後。あっちもこっちも明日からのGWに浮き足だっちゃってます。どこいく? なにする? 話題はそれでもちきり。
お隣くんのそばにいるのはわたしだけみたいだけど。やっぱり話かけられてるんだろうなぁ。
えっと。
「三日はユキちゃんがダンスイベントに出るから江里ちゃんと舞ちゃんと見に行って。そのままケーキ屋さん行って。四日はユキちゃんと舞ちゃんと映画。五日は美容院でしょ。六日はイトコの祥子ねぇのお婿さんのお披露目パーティーで、ばあちゃん家に集まってバーベキュー。お婿さんイケメンなんだって。その日はそのまま泊まって。祥子ねぇになれそめ聞かなきゃ、将来のためにね。七日は家族でランチしたあとお買いもの、おとうさんのワイシャツのお見立てをおかあさんとする、くらいかな」
なんか忘れてない? ゆびを折って、ひとつひとつ確認。うん、あってるだいじょうぶ。
「ふーん」
返ってきた気のない返事。聞いてきたからていねいに答えたのになんなんだろ。
いつのまにか片っぽのほっぺ、べたあってつけちゃってそっぽむいてるし。数学の授業のときとおんなじ。ふむ。
「そっちは?」
そう聞いてみたら、くるんとお隣くんの顔がこちらを向いた。あ。ほっぺ、赤くなってる。
「マサたちと遊ぶ」
「ふたりってなかよしだよね」
――愛しあってるからねー。
ちょっと離れたとこでワイワイやってるグループの輪からひょいっと顔だけ出してマサくんが言う。熱烈な発言にまわりの女子から歓声があがった。マサくんあいかわらずモテるな。
「うるせぇよ、マサ!」
お隣くんの大きな声。びっくり。男のコってホント声おっきい。いつもはお隣くんボソボソしゃべってるのに。
あんなふうに言われてもマサくんのほうは気にするふうもなく、逆にうんうんってやさしい顔で相づちしてる。
あ。お隣くん舌打ちした。お行儀わるいですよ。
「なかよしさんだね」
「べつにマサとばっかじゃないし。じいちゃん家いくし。釣りだって」
「マサくんとでしょ?」
「……帰る」
ありゃ。お隣くんはそう言うと立ち上がった。
「うん。バイバイ」
カバンを担いだお隣くんからの返事は片手ヒラヒラ。まだにぎやかな教室を出て行った。
なんだかな急に。照れたのかな。からかいすぎたかな。
お隣くんとマサくんは四月からおなじクラスになったのにすぐなかよくなった。ふたりはずっとずっとまえからなかよしだったみたい。そういうの、いいな。男のコって、いいな。
ふむ。
わたしも帰ろうか。 ……なん日学校休みだっけ。いち、に……。五日。土日もあるから長いんだよね。五日、お隣くんに会わないのか。
窓から、校門をくぐるお隣くんが見えた。マサくんもいっしょだ。肩くんじゃって。
あしたからは、たのしみなゴールデンウィーク。ずっと待ち遠しかった。
でもいまは。なんとなく。早くすぎたらなぁって思う。
了