止まった時計2
時計がさす時間は10時10分。
椅子に座ってぼんやり本を読む。
目の前に置かれた電話が鳴った。
ワンコールでとる。
「もしもし」
『もしもし』
少しためらうような低い声。
「こんにちは」
『久しぶり』
彼はためらった声に安堵を乗せる。
「元気、だった?」
『うん。おねーさんは?』
「元気、かな? 彼女とはうまくいってる?」
彼が電話の向こうで笑っている。
『変わらないね』
「変わらないよ。おねーさんくらいになるとそう変化はないなぁ」
時計の針は10時10分。
『また、電話していい?』
「うん。いいよ。時間のある時ならおしゃべりしよう」
知らない男の子は笑いながら『また』と言って電話を切った。
私は受話器を置くと時計を見上げる。
あの時は動いていた時計。
今は止まってしまった時計を見上げる。
気まぐれが繋げた通話。
「受験、どうなったかきかなかったなぁ」
読む気をなくした本を置きながら軽く伸びをする。
半実話