そのに。
「貴方たち全員がカモフラージュになっているのよ」
副会長の発言に、5人は一様に首を傾げる。
はっきり言おう。意味が分からない。
男が女の格好をして女に見えるのは子供の頃だけだ。それこそ第二次性徴が起こる前だろう。骨格が違う。筋肉の付き方が違う。手足の大きさが違う。
男が女の格好をして溶け込んでしまう事もあるだろう。それは否定できない。確かに、そのような特異性を持つ男はいる。だが、そんな男はごく一部。
男が女の格好になる事での必須条件は、化粧の腕ではなかろうか。女子高に紛れ込むならば、薄化粧でなくてはおかしい。バッチリメイクの女子高生もいるが、ここ『やな女』にはあまりいない。男で薄化粧はなかなかキツイ。顔の肌理の細かさが違うのだ。
5人は皆、化粧をしていない。スキンケアのみだ。
ちなみに女が男子校に潜り込むのは同じように不可能だ。どうしても違和感がでる。
まあ、男子高校生の嗅覚を舐めるなよ、てことだ。
「カモフラージュ?何のために?」
当然の疑問だ。5人の噂がカモフラージュならば、隠したい何かがある。つまり、噂を流した張本人が女子校に男を紛れ込ませているという事になるのだ。有り得ない。
男が女子校に紛れ込めるなど、しつこいようだが有り得ない。
「それは分からないけれど……」
副会長、さっきの自信満々の宣言は何処へいった。そう言いたくなるくらいのしおらしい様子になった。
「目的は分からない。もしかしたら、噂の通り男がこの女学院に居るのかもしれない」
「えぇ!?」
会長の言葉に5人の声が揃って出た。会長が言った事はあり得ない。
有り得ないのだが。
「心が女なら?女子校潜入、その一番の難関である『男の性』が無い」
まさか、と思う。親がそれを許すだろうか。例えその状況であろうとも、親はなかなか認められない。成人でも、親は認められない。ましてや未成年では子供は悩んでいるだけだろう。
そして一番の問題点は言わずもがな。
「それなら、『上』の許可が必要になるんじゃないの?」
公森の言う『上』とは学院長よりも上。理事たちの事だ。
「そうよ。もし心が女の子の男子がいるとして。この噂がカモフラージュだとしたら理事会が流したってことになるじゃない」
教育者としてどうなんだ、学校法人の理事会。
早瀬の言葉に他の4人と生徒会役員たちは何とも言えない感情を抱く。まだ確かな事ではないが。
「もし理事会がこの噂を流したとして、だ。どうして今の時期なんだ?」
「それに、どうして5人も必要なんだ?」
渡辺と黒部の質問に答える形ではあったが、生徒会側は自分たちの噂を纏めて考察したレポートに目を通した。
「まず、時期の問題ですが。『やな女、男がいる!?』という噂が出始めたのは、夏休みが終わった頃でした。まだこの頃は笑い話程度です。現在11月末。噂が固定してしまいましたね」
「どうしてこの時期に噂が出たのか、分からない。転入生はいない。誰に対してのカモフラージュなのか特定は出来なかった。夏休みからこっち、我が女学院で増えたのは養護教諭の補佐1人。しかも男だった。男が来た為に男がいるという噂が流れるのもオカシイだろう」
副会長の言葉を会長が補完する。
「5人必要だったのは……『えぇ!?』『嘘!?』と話題に乗せやすい人物。これは早瀬さんと渡辺さんと黒部さん」
ある程度名前が通っているからね、と言われる。別に全校生徒が彼女たちを知っている訳では無い。だが、ある程度認知されている人物たちではある。なので噂が出ると「誰のこと!?」「ほら、あの子よ」「あぁー。なるほどねー」と会話が可能になる。そして、笑い話になるのだ。
「で、公森さんは『まさか!?』の要因じゃないかしら。凄く女の子らしいし、お洒落だし」
子供の頃男の子に間違われたことがコンプレックスになった為にお洒落に目覚めたというのに、それを逆手に取られたとは…!
公森は痛恨の一撃を受けた。精神は瀕死の状態だ。
「園村さんの場合はね。……ごめんね、怒らないで聞いてね」
一呼吸置いて、副会長が言葉を続けた。
「たぶん、『…あれが?』じゃないかな。噂に真実味を帯びせる為。3人は有名人。1人はお洒落。そして、地味な園村さん。この、園村さんが重要な立場になってるんじゃないかしら」
小首を傾げて園村を見る副会長。
知らんがなっ!
園村は、己の知らない内に何だか重要な立ち位置になっていたことに、げんなりした。