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そのいち。


 不快に思われる方には、先に謝罪します。

 ごめんなさい。



 とんでもないことを尋ねられた。有り得ない。


 そう心で強く思った女子高生が5人。この件の被害者でもあった。




 私立柳閏女学院。りゅううるう。言いにくい。皆、やな(じょ)と略している。やなおんな、と読んではいけない。呼んでもいけない。


 そのやな(じょ)は設立60周年を迎えた中高一貫の女学院として地域に根差している。

 特別お嬢様校でもなければ、特別難しい訳でも無い。可愛い制服に憧れて「行きたい!」と言えば「仕方がない」と許して貰える程度の授業料と、きちんとした教育をすることには定評のある女子校だ。


 その、やな(じょ)。とある噂が、最近になって、立ち昇った。


『男が、通っている』


 女子校にはあり得ない。だが。


 火のない所に煙は立たぬ。有名な慣用句だ。そんな、やな(じょ)にとっては迷惑な言葉がこの話が表に上がるたびに付け足される。


 世間では最初、女子校に入るような男なんて居る訳が無い、そういう感じで面白おかしく話題になっていた。

 だが、そこに特出した運動神経の持ち主がいたのなら。そこに男よりも男らしい学園のアイドルがいたのなら。


 そうして、世間では『やな(じょ)、男がいる!?』疑惑へとなったのだった。


 疑惑の5人。


 2年3組 バレー部キャプテン・早瀬郁美の場合。

 身長175センチ。ジャンプ力は校内でも1,2を争う。


 2年1組 バスケ部エース・渡辺実優の場合。

 身長178センチ。端正な顔立ちは校内でも人気が高い。


 2年2組 テニス部マネージャー・公森佳澄の場合。

 えらの張った顎を気にしている、身長170センチだが運動音痴。


 2年4組 演劇部男性役・黒部彩花の場合。

 身長172センチの演劇部花形。男装の麗人、とまで評されている。


 1年1組 帰宅部・園村麻由美の場合。

 169センチ。校内でも目立たない立場。なぜ名前が挙がったのか、定かではない。




 ここは、やな(じょ)、生徒会室。問題の生徒たちが集められた。生徒会役員は会長、副会長、書記に会計の4人だ。


「どうしてこうなった」


 帰宅部・園村の心中はこの一言に限った。いや、園村だけではないだろう。


「ここに呼び出された諸君。心当たりはあるか?」

 生徒会長が、妙に芝居がかった台詞を吐いた。だが、5人はそれには付き合えない。


「会長、勘弁してよ。どうして私らに男疑惑なんてかかるのよ。早く何とかして」

 バレー部キャプテンの早瀬とバスケ部エースの渡辺は、そろって顔をしかめる。

「その噂のおかげで、対外試合に出られない。相手の学校が言ってくるんだぞ!?『男は反則だ』って!!私は女だっていくら言っても認めない。バッカじゃないのっ」


 当然だ。男が女子校に入り込むなんて、小説か漫画の世界だ。実際にそんな事があったらすぐにわかる。


 第二次性徴を舐めるなよ。


 恐らく相手の学校の嫌味の様なモノだろう。そうは思っても腹が立つ。


「先生たちまで、あたしを見る目が違うのよね。参っちゃった……」

 テニス部マネージャーの公森は、えらの張った顎に少し太めの眉。子供の頃は男の子に間違われたことも多少はあったらしいが、コンプレックスがあること、それが公森を女の子らしく装う方向を示した。だが。

「この中じゃ、私が一番男みたいだもん……」

 コンプレックスはなかなか無くなるものでは無い。


「私は男みたいと言われ慣れてるけど、さすがに男と断定されるのは腹が立つ。演技だっての」

 演劇部の花形男役の黒部は少し違う方向で怒っていた。演技の事を言われているのではないのが怒りの方向を変えてしまったのだろう。


 会長たち4人は残る一人に目を向ける。だが、彼女は何も言わない。言うべき事が無いのだ。


「なんで私の名前が出て来るのかが、疑問なんですけど……」


 たった一人の1年生、園村は目立たない、何処にでもいる地味な生徒だった。多少、背が高いだけ。本人の言うようになぜこのメンバーと共に名前が挙がるのか分からない。

 園村のみ1年生で部活動に所属していない。


「皆さんの共通点がいくつかあります」

 書記がそう言って、ホワイトボードに書き出した。


 一つ、外部からの高等部入学組。

 一つ、自転車通学。

 一つ、選択科目で体育を履修。


「ここで、噂についての疑問が出て来ます」

 書記の言葉を会長が引き継いだ。

「5人とも体育を選んでいるところだ。体育にはもちろん水泳も含まれている。皆、水泳の授業は休んでいないな?」


 生徒会役員たちと疑惑の5人は長い机を挟んで座っている。あちら側に生徒会、こちら側に生徒たち、という風に。


「当たり前じゃないの。欠席したら補習で1000m、休憩無しで泳がされるのよ。授業に出る方がよっぽど楽だわ。風邪をひいてても」

 早瀬の言葉に残りの4人も首を縦に振る。


 やな(じょ)の体育は選択制だ。そして体育の授業には夏には水泳がある。格好はスクール水着だ。男であるならば、どう誤魔化そうが誤魔化せないし誤魔化しきれない。


 考えてみよう。想像してみよう。

 君は高校生だ。男子高校生だ。周りが水着姿の女子高生ばかり。


 ……第二次性徴を甘く見るなよ。


「おかしいだろう?そして公森。君が言ったとおり、先生方まで怪しいことに噂を肯定するかのように振る舞う。他の人はどうだ?」

 会長に指摘された公森は、憮然とした表情でその先生に言われたことを思い出している。そして、他の4人にも心当たりがあった。


「そう言えば……。『陸上選手で染色体のせいで問題になった女性がいるが、お前は大丈夫か?』なんてこと言われたことがあった……」

「私もだ……」


 運動部の早瀬と渡辺は、よくある顧問からのセクハラ発言だと思っていた。だが、この訳の分からない『やな(じょ)、男がいる!?』という噂から端を発しているとしたら…。


 演劇部の黒部は顧問から嫌味のように「男役がはまり役ね。もしかして男?」と常々言われている。


 そして唯一部活動をしていない1年生の園村は。

「女の格好が様になってないな、て生活指導の先生から言われたことがあります…」

 まるで女装扱いだ。


 その園村の発言に何故か頷く生徒会の面々。副会長が晴れ晴れとした顔をして5人に持論を展開した。


「貴方たち全員がカモフラージュになっているのよ」


「おそらく、な」


 そして、会長が言葉に重さを与えた。







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