7.
「‥‥タルデ」
ふと、眠っているとばかり思っていたマーニャが呟いた。
「‥‥起きてる?」
「‥‥眠らないよ」
同じように呟き返すと、マーニャは少し黙った。
マーニャも不安なのだろうとタルデは思っていた。つい最近まで共に生き、同じところを目指していたはずの人間が、いきなり自分とは違うものになったというのだから。今夜に限らずとも、ふとした時にマーニャがタルデの名を呼ぶことは増えた。それで何が分かるわけでなくても、呼ばずにはいられないこともあるのだろう。
「‥‥タルデは‥‥」
黙ったので寝ぼけていただけかと思っていたら、またマーニャが続けたのでタルデは少し意外に思った。
「‥‥タルデは、自分が変わったと思う?」
「‥‥そりゃぁ‥‥」
いまさら何を、と思って寝ているマーニャを振り返ったタルデは、ぎくりと動きを止めた。
マーニャが毛布の間から、とても強い目で自分を睨んでいたから。
「違うの」
「何が違う?」
「タルデは死んでしまった。それは、もうわたしにだって分かってる。
でも、そうじゃなくて、タルデは自分がタルデ以外のものになったと思うの?」
睨んでいるわけではなかった。ただ、マーニャは運命とか未来とか、そういったものを憎んでいるだけだった。それが分かって、それでもタルデは少し悲しかった。
「‥‥なかなか深いことを言うね」
タルデは唇を歪めた。
マーニャはそんなタルデを凝視している。
「私は、私のままだよ。それは確かだ‥‥と思う。傍から見てどうだかは分からないけど。
それでいて、死んだ自覚もそのまま動いている自覚もある。死んだら土に還ると思っていたのに、こんな存在ありえないと思うのに、それでも私は死んでも私のままだと、そう言えるよ」
「‥‥わたしもそう思うよ」
なぜ、マーニャがこんなことを言い始めたのか分からなかった。またあの強い目に捕まりたくなくて、タルデは目を逸らして焚き火をつついた。