6.
それからも、別になんら変わりなく旅は続いた。
変わりなく、というのもおかしな話だ。間違いなく旅の片割れであるタルデは死んで、それでも今までどおり動いているという特異な存在になっていて、それなのに2人は今までと同じように旅を続けた。
その理由のひとつは、タルデの見た目とか動きとか、記憶や感情や嗜好が、生前とまったく同じだったからだろう。少なくともタルデは己が変わってしまったとは思わなかったし、態度からすればマーニャにしても違和感は覚えなかったのだろうと思う。自分が息をしていないことを忘れることもあった。
それでも変化したことはもちろんあった。
夜。タルデは1人、星を見上げていた。
隣からは小さな寝息が聞こえてくる。その暖かさも感じている。けれど、自分が感じるこの暖かさを、自分は彼女に与えることがもぅできない。それは漠然とした不安であり、怒りであり、悲しみだった。具体的なものにするのには辛くて、ただ、タルデは空を見上げていた。
かつても、こういう情景がなかったわけではない。女の2人旅は思ったほど危険ではなかったけれど、流石に見張りもおかずに寝こけてしまえるほど、タルデもマーニャも油断していたわけではない。毎日、少し早めに寝場所を確保して、2人で交代で眠っていた。太陽が一番遠い時間に起こされて、焚き火をいじりながらぼんやりと周りを見ている時間が、タルデは嫌いではなかった。
けれど、今は、夜の見張りはタルデだけがしていた。
最初は不安だったから寝られなかった。寝入ったら最後、もぅ目が覚めないのではないかと思って。生来の意地っ張りから、正直にそうは言わなかったけれど。けれど最初の夜が明けて、まったく眠くならない自分を発見した。気が張っているとかそういう問題ではなく、睡眠というものを自分は必要としなくなったらしい。そう思って、それも当然か、と思った。だって自分はもぅ生き物じゃないから。
そして次に、腹も減らない自分を発見した。それも当然なことだとタルデは思ったが、それらを伝えたときマーニャは息を詰めていた。だから最近は、食事のときはタルデは席を立っている。昔も、さっさと食べ終わって準備をしていたから、それほど変わったわけでもない。
自分は化け物になったのだろうか、とタルデは自問した。
どうだろう、と思う。完全に否定はできないとは思う。なにせ動く死体だ。思考が化け物じみていないだけで、存在そのものは化け物だとは思う。けれど、自分は化け物そのものだとも思えなかった。自分のことだからかもしれないが、これほど思考が連続しているせいで、自分がかつて人間だったタルデとどう違うのか、いまいち自覚できない。
変わってしまったこと。変わっていないこと。それらをつらつら考えながら、タルデはぼんやりと星空を見上げていた。