表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死者の午後  作者:
死者の午後
6/53

6.

 それからも、別になんら変わりなく旅は続いた。


 変わりなく、というのもおかしな話だ。間違いなく旅の片割れであるタルデは死んで、それでも今までどおり動いているという特異な存在になっていて、それなのに2人は今までと同じように旅を続けた。


 その理由のひとつは、タルデの見た目とか動きとか、記憶や感情や嗜好が、生前とまったく同じだったからだろう。少なくともタルデは己が変わってしまったとは思わなかったし、態度からすればマーニャにしても違和感は覚えなかったのだろうと思う。自分が息をしていないことを忘れることもあった。


 それでも変化したことはもちろんあった。


 夜。タルデは1人、星を見上げていた。


 隣からは小さな寝息が聞こえてくる。その暖かさも感じている。けれど、自分が感じるこの暖かさを、自分は彼女に与えることがもぅできない。それは漠然とした不安であり、怒りであり、悲しみだった。具体的なものにするのには辛くて、ただ、タルデは空を見上げていた。


 かつても、こういう情景がなかったわけではない。女の2人旅は思ったほど危険ではなかったけれど、流石に見張りもおかずに寝こけてしまえるほど、タルデもマーニャも油断していたわけではない。毎日、少し早めに寝場所を確保して、2人で交代で眠っていた。太陽が一番遠い時間に起こされて、焚き火をいじりながらぼんやりと周りを見ている時間が、タルデは嫌いではなかった。


 けれど、今は、夜の見張りはタルデだけがしていた。


 最初は不安だったから寝られなかった。寝入ったら最後、もぅ目が覚めないのではないかと思って。生来の意地っ張りから、正直にそうは言わなかったけれど。けれど最初の夜が明けて、まったく眠くならない自分を発見した。気が張っているとかそういう問題ではなく、睡眠というものを自分は必要としなくなったらしい。そう思って、それも当然か、と思った。だって自分はもぅ生き物じゃないから。


 そして次に、腹も減らない自分を発見した。それも当然なことだとタルデは思ったが、それらを伝えたときマーニャは息を詰めていた。だから最近は、食事のときはタルデは席を立っている。昔も、さっさと食べ終わって準備をしていたから、それほど変わったわけでもない。


 自分は化け物になったのだろうか、とタルデは自問した。


 どうだろう、と思う。完全に否定はできないとは思う。なにせ動く死体だ。思考が化け物じみていないだけで、存在そのものは化け物だとは思う。けれど、自分は化け物そのものだとも思えなかった。自分のことだからかもしれないが、これほど思考が連続しているせいで、自分がかつて人間だったタルデとどう違うのか、いまいち自覚できない。


 変わってしまったこと。変わっていないこと。それらをつらつら考えながら、タルデはぼんやりと星空を見上げていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ