表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死者の午後  作者:
死者の午後
5/53

5.

「‥‥どうして」


 ごめん、とまたタルデは呟いた。自分がなぜ謝るのかはよく分かっていなかったけれど、タルデはすまない気持ちでいっぱいだった。マーニャをおいて行ってしまう。あるいはマーニャにおいて行かれてしまう。


「どうして謝るの」


「‥‥分からない。でも、ごめん‥‥」


 そうしてしばらくうつむいていた。マーニャの視線は痛いほど感じたけれど、彼女に何を言えばいいのか分からなかった。


 やがて、口を開いたのはマーニャのほうだった。


「‥‥死んでない」


 激情を押さえているようにそう言われて、意味が分からず、タルデは下から窺うようにマーニャを見た。どこか怒っているみたいだった。


「タルデは、死んでなんかない。だってここにいるもの。わたしの目の前にいるもの。喋っているもの。触れられるもの。タルデは死んでない」


「‥‥でも」


 何を否定したいのか、マーニャは首を横に振った。何度も何度も。あるいはすべてを否定したいのかもしれない、と思った。


「分かってるから言わないで。いつもみたいに、理屈を説いたりしないで。

 でも、だって、確かにタルデは、し‥‥死んじゃった、のかもしれないけど、じゃぁ、今わたしの前にいるのは誰なの?死んだら土に還るんだって、魂なんて残らないって、わたしもそう思うけど、じゃぁ、今そこにいるタルデは何なの?」


 涙を残した目で睨まれて、タルデは少し怯んでしまった。マーニャがここまで感情的になるのも珍しい。タルデとは違った意味で、彼女も自分を見せるのを嫌うから。


「‥‥分からないよ。

 確かに言えるのは、私は私がタルデだって知っているということだけ。私は自分がタルデだと思うし、多分、記憶とかだって生前のままだよ。でも分からない。錯覚しているのかもしれないし。

 分からない、私は今は私だけど、これからどうなるかも分からない。分からないけど、でもただ、今は、今までどおりマーニャを守っていたいよ」


 マーニャの涙にうろたえる形で、けれどそれが自分の本心なのだと思った。そうだ。自分は、マーニャを守る。彼女の傍らにいて、彼女の望みをできる限り叶えよう。そうだ、それが、自分の根幹なのだと、タルデは知った。


「‥‥やっぱりタルデは死んでない」


「‥‥それは死んでも変わらなかったってこと?」


 ようやく冗談のように言って、2人は笑った。ひきつってはいたけれども。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ