5.
「‥‥どうして」
ごめん、とまたタルデは呟いた。自分がなぜ謝るのかはよく分かっていなかったけれど、タルデはすまない気持ちでいっぱいだった。マーニャをおいて行ってしまう。あるいはマーニャにおいて行かれてしまう。
「どうして謝るの」
「‥‥分からない。でも、ごめん‥‥」
そうしてしばらくうつむいていた。マーニャの視線は痛いほど感じたけれど、彼女に何を言えばいいのか分からなかった。
やがて、口を開いたのはマーニャのほうだった。
「‥‥死んでない」
激情を押さえているようにそう言われて、意味が分からず、タルデは下から窺うようにマーニャを見た。どこか怒っているみたいだった。
「タルデは、死んでなんかない。だってここにいるもの。わたしの目の前にいるもの。喋っているもの。触れられるもの。タルデは死んでない」
「‥‥でも」
何を否定したいのか、マーニャは首を横に振った。何度も何度も。あるいはすべてを否定したいのかもしれない、と思った。
「分かってるから言わないで。いつもみたいに、理屈を説いたりしないで。
でも、だって、確かにタルデは、し‥‥死んじゃった、のかもしれないけど、じゃぁ、今わたしの前にいるのは誰なの?死んだら土に還るんだって、魂なんて残らないって、わたしもそう思うけど、じゃぁ、今そこにいるタルデは何なの?」
涙を残した目で睨まれて、タルデは少し怯んでしまった。マーニャがここまで感情的になるのも珍しい。タルデとは違った意味で、彼女も自分を見せるのを嫌うから。
「‥‥分からないよ。
確かに言えるのは、私は私がタルデだって知っているということだけ。私は自分がタルデだと思うし、多分、記憶とかだって生前のままだよ。でも分からない。錯覚しているのかもしれないし。
分からない、私は今は私だけど、これからどうなるかも分からない。分からないけど、でもただ、今は、今までどおりマーニャを守っていたいよ」
マーニャの涙にうろたえる形で、けれどそれが自分の本心なのだと思った。そうだ。自分は、マーニャを守る。彼女の傍らにいて、彼女の望みをできる限り叶えよう。そうだ、それが、自分の根幹なのだと、タルデは知った。
「‥‥やっぱりタルデは死んでない」
「‥‥それは死んでも変わらなかったってこと?」
ようやく冗談のように言って、2人は笑った。ひきつってはいたけれども。