11.
四肢の『鋳型』はほぼ完成した。
体幹のそれがまだ出来上がっていないが、それにはひとつ問題があるのだとタルデは言った。
「‥‥その、な。気分の良いものではないのだが」
「姐さんの仕事を受けてから気分が良かったためしがないすよ」
一生分くらいグロテスクなものを見た気がする。それを見られることに興奮を覚える性質などでは決してないことをすでに知っているので、むしろ恥だと思っていることを知っているので、なるべくこともなげにレイは言った。タルデは苦々しく言った。
「‥‥数十年前‥‥もしかしたら百年くらい経っているかもしれないが、まぁ、比較的最近、」
「数十年は最近じゃねぇっしょ」
タルデの時間感覚はずいぶん狂っている。
「背骨が折れて、」
「うわ聞きたくねぇ」
「戦闘中というか逃亡中だったし、上手いこと見繕うこともできなくて、」
何となくオチが知れた。
「その‥‥背骨の代わりに剣が刺さっているものだから」
「うわぁ‥‥」
見てみるか、とタルデは束ねた髪を横によけ、レイの目の前に首筋を晒した。
色めいたところはまるでない。それでもいやいやながら示されたところに目をやって、
そこにあるものの存在を感じた瞬間、
(これは、力だ)
と思ってしまった。
タルデはそんな、ある意味不埒なレイの視線の意味に気付かず、無造作に首元を晒している。
あの、儚い笑顔が脳裏に浮かんだのは何故だろう。
禍々しさすら覚えるのに、その圧倒的な存在感、これまで知らずに過ごせていたその力、目にしたことで魅入られてしまった。
(この力があれば)
あの笑顔を守ることができるだろうか。
いや、できるに違いないと、何故そんな確信が、
手を伸ばしかけたところで、タルデがやはり無造作に、よけていた髪を離した。黒髪が重力に従って首筋を隠す、それで、魔法から覚めたようにレイはタルデに意識を戻した。
「そんなわけで、仮縫いができないと思うんだ」
「あ――‥‥あぁ、そうっすね。確かに」
四肢のそれは、何度か仮縫いを繰り返し、最終的にぴたりとしたものを作り上げた。すでにタルデはそれを纏っていて、というかぴたりとしすぎていて、今更脱ぐこともできないのだ、実は。
それと同じことが、多分できない。何故なら最終的には背骨の代わりのその剣を抜かなければならないが、抜いてはタルデは身体を起こしていることが困難だから。
タルデはただの怪我自慢です。
迷惑と分かっていても自慢せずにはいられない。そんな怪我自慢に不幸自慢をする娘です。
ただそれが普通よりグロいので、レイには大迷惑ですね。




