9.
レイがお屋敷の少女のことを知ったのは、父親が倒れるずっと前、彼が子供ながらにその仕事の助手をしていた時分だった。
お屋敷の主は気さくな人で、父親のお得意様であるだけでなく、幼いレイを存外気にしてくれていた。そして、大店を通さずに直接のやり取りを許してくれたのだった。
もっとも、今にして思えば、件のお嬢様に歳の近い話し相手をあてがいたいという狙いもあったのだろう。それはレイにはどちらでもいい事であるが。
直接の商品のやり取りに、動くのは助手のレイの仕事だった。数日おきにお屋敷に向かい、完成品や試作品を受け渡し次の注文を受ける。その合間に、離れのお嬢様との会話を望まれたとしても、レイに断る選択肢はなかった。
単純な興味だった。不治の病に倒れた少女。身体が少しずつ弱り、かといって誰かが手を貸せばその誰かをも蝕んでいく病。素手でなければ触れ合うこともできるがそれは触れ合いとも呼び難いだろう。親の庇護の下にあるにもかかわらず、触れることが許されない少女。
そして依頼主の希望のままに、己の興味も手伝って、覗いた離れで少しの時間を共にしたお嬢様に、レイは、心奪われてしまった。
今もその気持ちは続いている。遂げようだなんて思っていないが、ただ、儚いあの笑みが焼き付いて離れないのだ。
それは、同じ病が父親を奪い、お屋敷が以前ほどのお得意先でなくなった今でも、いや今でこそ、レイの心の内に息づいている。
タルデがレイに願ったのは、つまり、彼女の身体を支えるためのものだった。タルデは鋳型と言ったが、材質からして拘束具に近いなとレイは思った。
「‥‥こんなもんすか」
「ふむ。もう少し腕のあたりはきつくて構わないが‥‥」
普通の人間相手には、ここまできつくは作らない。普通は苦痛でたまらないくらいの締め付けが、しかし、タルデには必要らしかった。
まぁそうだろうなとレイは思う。依頼を受けたことで依頼主に格上げになったので、取ってつけたような敬語で接し始めたころに見せつけられたタルデの身体はそれはひどいものだった。
なんというか、ぼろぼろだった。




