8.
別に売り物買い物くらいはできる、と主張したがそれを放っておいて、レイは削ったばかりの宝石の原石と補修の終わった鞄と靴とを手に家を出た。レイが死んだ父親から受け継いだのは、主に革製品を扱う個人の工房とその看板だった。
主に、というだけだから、部品としての金物も扱うし縫製なんかも自分でする。商品を売り出すこともあるが、まだ若いレイを指名しての製作依頼はほとんど入らない。修理や補修で食いつないでいると言うのが現状だ。それでも食うに困らないだけいいだろう、と、レイは弁えていた。
まず自分が請け負った仕事であるところの補修を大店の親父に提出する。それから顔見知りの光り物屋に買いたたかれて、それでも結構上物だったらしく思ったよりは金になった。これなら仕事としてはタルデの依頼を受けるのは構わないが、ただ、2年間の滞在については思うところはまだある。
そしてその足で、レイは大通りから外れたお屋敷へ向かった。
お屋敷と言ってもそれほど大きくはない。もちろんしがない職人であるレイの家と比べるべくもないが、工房兼作業所兼物置と母屋とを合わせた敷地よりも当然のように広大な、ただ思うほどの威圧感のない、寂れた屋敷だった。
「お嬢さん」
その、離れ。最低限の人間しか近付かないそこに、数年前からレイは通っている。
「‥‥あら。またいらしたの、職人さん」
寝台から身体だけ起こして、こちらに向けられた顔はあまりに白い。
「お嬢さんも元気そうで何よりだ」
どう見ても病に臥せっているお嬢様の図だが、確かに受け答えができると言うことはいつもよりは体調がよいのだろう、とレイは声をかけた。
「そうね」
儚い微笑みを浮かべる少女。レイよりも、ひとつふたつ歳下だと聞いたことがあるが、それよりも幼く見えるのは、おそらく長い闘病生活で十分な成長が出来ていないせいだ。
「何か、面白い事でもあったのかしら?」
レイは離れの窓から覗き込んだ。少女のほうは寝台から動かないし、レイも中に踏み込んだりはしない。
それは礼儀というものもあるが、それ以上に、少女の患う病の感染を防ぐためでもある。
不治にして、接触により感染者を増やしていく、それが少女の体を蝕む病魔だった。レイは当然それを知っていた。彼の父も同じ病で倒れて死んだのだから。遺体に取りすがることすらできなかった。




