6.
「‥‥で、そう、依頼をしたかった、んだが‥‥」
言いながら気を遣うようにこちらを見てくるのは、それは2年も潜んでいればレイの生活習慣くらい知っているからだろう、そろそろ普段なら就寝時間だ。
そんなところで気を遣われても困る。というより、腹立たしくて、いいから話してみろとレイはタルデを睨んで吐き捨てた。ただでさえ悪い目つきがより悪くなりそうだった。そもそも知らなかったならともかく、知ってしまった以上、見知らぬ女がいる家で話も途中で休みたくもない。
「それなら遠慮なく。
とはいえ何と言ったらいいものか‥‥」
そんなに説明しがたいものを依頼しようというだろうか。しきりと首をひねっているタルデを半眼で見据える。
「まぁ‥‥簡単に言うと、私の鋳型を作ってほしい、というところだろうか」
ようやくひねり出したらしい答えは、やはり意味が分からなかった。
翌朝、決してさわやかとは言い難い目覚めを迎えた。
目覚めてすぐにしたことは、自室の鍵を確かめることだった。異常はなかった。
田舎暮らしの割にレイは存外警戒心が強い。それはいちいち自宅の鍵をかける習慣からも分かることだし、昨夜の闖入者――というよりもずっといたらしいが、知ったのは昨夜だ――の告白を経て、自室の内鍵も活用するところにも顕れている。理由はレイにもよく分からないが、何となくというだけだった。泥棒などを気にしているわけでもなく、ただ、己の領分を開放するのが嫌なのだった。
よくよく考えなくても、2年も彼女はこの家に潜んでいたということだし、昨日までのレイはまったく気付いていなかったのだから今更警戒しても無駄なのだが、それでも気分の問題だった。
「あぁ。おはよう」
そうして朝の支度を整えてから台所に向かったレイを出迎えたのは、一晩経っても悪夢になってはくれなかった、タルデと名乗る女だった。
「‥‥はようさん」
途端にもともと高くもなかったテンションが一気に下落した。それでも律儀に返事だけはする。
こちらの不機嫌など意に介さない様子で、無造作に動くタルデにとりあえず一言だけ言いたい。
「‥‥他人家の台所で一体何してんだ」
いや、おそらくは食事の用意なのだろうが、それは男の手料理も真っ青なほど豪快に過ぎた。




