5.
大の男がお前泣いていただろうと告げらえて、何事もなかったように会話を続けられるものだろうか。いや無理だ。と反語調で思いながら、レイは絶句していた。顔は多分、血が上って赤くなっているか、もしくは血の気が引いて青くなっている自信があった。相手が冷静であっても、いや冷静であればこそ、いたたまれなくて正直言葉は耳を素通りしていたが、素知らぬようにタルデは先を続けた。
「とりあえず適当に拝借した毛布をかけてだな。軒先のつもりが母屋に入ってしまったが、まぁ、雨が上がったら出て行こうと」
それでしばらく時間をおいて、また依頼をしに来ようとしていた、とタルデは言った。
「とは言っても、一宿の恩はあるしこれからものを頼もうというのだし、私が出て行くことで防犯上の問題が発生するというのも申し訳ない、と思ったのが悪かったな。
不在の時に出て行くにしてもお前鍵をきちんとかけて出かけるし、夜中にでもと思ったがやっぱり施錠はきちんとしているしで、機会を失って早2年が経ったというわけだ」
というわけだ。と言われても。
「どっかで妥協しろよっ!」
思わず突っ込みを入れて、そこでようやく我に返った。
「まぁ‥‥妥協したのが今日だったということで」
「えらいこと気が長いなおぃ」
我に返ったが実に力が抜けた。出るに出られずまごまごとするタルデを想像するだに笑える。笑えるが、その場所がこの自宅だというのは笑えない。そこで2年を過ごしてまるで気付かなかった自分はどれだけ鈍いんだ、と頭を抱えたくなってくる。
「無駄に時間を過ごすことばかりうまくなっていくよ」
一体どこでどのように過ごしていたのか、訊きたいような訊きたくないような、と思っていると、タルデのほうからそれは答えを告げてきた。
「2年も積まれたまま掃除も整頓もされないあの年代物の鎧兜は何なんだ」
作業場兼倉庫のあの片隅か、確かに父が亡くなってから父の趣味の産物に手をかけることもなかった。幸い、あれらを売り払って材料を手に入れなければならないほどには困窮もしなかった。確かにあの片隅なら薄暗いことだし、この奇妙に存在感のない女なら気付かなくてもおかしくはない‥‥のか?
それにつけてもやはり、自分の鈍さは改善すべきだな、と思いながら、とりあえずレイはタルデを恨みがましく睨んだ。




