4.
「‥‥で」
彼は仕切り直すように言葉を継いだ。
「それでどうして、うちに来た‥‥つーか、いた、んだ?」
そういえば危うくごまかされるところだったが、タルデは彼の疑問に何一つ答えていなかったのだった。いや、ひとつだけは答えたのか、お前は何者だ、という。
「‥‥あぁ」
流暢に身の上話をしていたタルデが、途端に歯切れ悪くなったのは多分彼の気のせいではない。
先に頼みたい仕事について訊いて来るかと思った、と口の中で呟いて、タルデはばつが悪そうに彼を盗み見た。
「あー‥‥
本当は、お前の‥‥レイ、だったか、お前の、父親に頼むつもりで来たんだ」
何故名前を知っている、と思ったが、そういえば潜んでいたとか何とか言っていたからその間に知ったのだろう。もしくはそもそも彼、レイの父親を名指しで来たのだったら、その中で聞き知ったのかもしれない。
だが。
「‥‥父さんは死んだ」
それは当たり前の死を迎えていた。当たり前、と言えるだろうか、ほかの誰も死ななかった流行病で亡くなったというのは、当たり前よりも運が悪かったと言えるかもしれない。
タルデはそれに、神妙に頷いて見せた。
「‥‥知っている。2年前だろう」
そう、2年。基礎の基礎しか修めていなかったレイが、見様見真似と記憶と父の同業者の助言とでなんとか店を受け継いで、2年が経った。
「2年前の父君の葬儀の日、だな、あの雨の日にようやく辿り着いたんだ」
「‥‥あの日‥‥て、まさか‥‥」
涙雨と呼ぶのだと、誰かに教えてもらった。それまで父と2人暮らしだったから、急に1人残されてどうしていいか分からなくなって、近所の助けを借りながらどうにかこうにか迎えた葬儀の日だった。
まさか、あの日から今日までいたとでも言うのだろうか、冗談だろう、とひきつった笑みを浮かべたが、タルデは至極真面目な顔をしていて冗談でもなさそうだった。
「出直そうとしたんだが。雨を避けたくもあって。鍵が開いていたから軒でも貸してもらえれば、と思ったんだが」
声をかけようと入った先で、泣きながら眠っていたものだから、声もかけられず、かといってあまりに怪しい出で立ちなものだから普通に宿を借りることもできず、勝手に入った、とタルデは言った。




