3.
「‥‥大体こんなものだろうか」
そうタルデと名乗る女は言って、黙った。まるで他人事のように、端的に、せいぜい茶を入れるくらいの時間で、己の人生を語って見せた。どうやらその胸中には長い長い物語が思い出されていたらしいけれど、それは他人には見えない。
「‥‥信じられないか?」
そう彼女は言って、けれど実際のところなぜか納得できてしまっていたものだから、彼は首を横に振った。
「‥‥信じたのか。それはすごいな」
やっぱり他人事のように彼女は言った。何を言っていいか分からなくて、彼はただ黙っていた。何を言えるというのだろう。親に売られ、死に、友も死にそれでも生き続けなければならない壮絶さなど、彼は知らない。そしてようやく見つけた仲間は、一言だけ遺して消えたという。世界にひとり、残された気持ちなど彼には分からない。
タルデは不思議そうに彼を見つめ続けていて、それからあきらめたように笑った。
「どう思う?」
「‥‥どう、とは?」
そして彼女は唇を歪めて壮絶な笑みを浮かべた。そうしてはじめて、その内にはまだ感情があるのだと、彼にもやっと見て取れた。
「私は化け物だろうか」
そう思うのだろう、と問いかけられている気がして彼は首を横に振った。
「多分、違うんだと思う」
「何故?」
彼はようやくタルデを真っ直ぐ見て言った。
「‥‥あんたは自分が化け物かもしれないと思うとき、傷付いているみたいだから。本当に芯から化け物なら、きっと傷付いたりしない」
そう言うと、それは確かに本心だったのだが、タルデは疑わしそうに彼を見て、それからそんな自分に気付いたようで、息を吐くように笑った。それは自嘲によく似ていた。
「なるほど。確かに私は化け物だと思うたびに傷付いているな。
それじゃぁ私は化け物じゃなくてもいいのだろうか」
それは途方に暮れたように呟いた。




