2.
「茶でも飲むかね?」
楽しそうに、あるいは皮肉めいて、女は言った。彼は憮然として、無言で自分のカップに水を汲んだ。
彼が自分の椅子に腰掛けるのを待って、普段誰も使わない椅子に女は座った。普段は空いている、テーブルのその場所に肘をついて、女は少し考えるように目を閉じた。
「‥‥何から話したもんかな」
彼としては待つしかない。しかし、不思議だった。間違いなく女は不法侵入者なのに(本人曰く不法滞在者でもあるらしいが)、この女をそれほど不審に思っていない。なぜだろう。ただの水を口に運びながら、彼は女を観察する。
まず気付いたことは、口調と態度から彼が想像していたよりも、女が若いということだった。というより、幼いと言ってもいいかもしれない。何せ今まで玄関先の暗がりにいたものだから、よく分からなかったのだ。年のころは10代の半ばくらいだろうか。ただし、この妙な落ち着きと厭世的な表情は、その年代にそぐわないが。
それから、身体中いたるところに布が巻きつけてある。それはファッションというよりはただ必要に迫られた、と言う感じで無造作で、けれど必要に迫られてそれだけ体を覆うというのはどういうことだろうと思う。まるでミイラだ。ただ、それは包帯ではなくただの布であるだけだ。結果、女は色彩豊かになっている。着飾りたい年頃といえば年頃だろうが、それにしてはその態度とそぐわない気がする。もっとも、この女と接触を持ったことなどこれまでないから、先ほどの短い会話で抱いたイメージに過ぎないのだが。
それから、背筋が妙に伸びていた。
「‥‥そうだな――とりあえず自己紹介などを。
私の名はタルデ。北のほうの生まれだ、多分」
多分って何だ。
タルデと名乗ったその女を観察するのはひとまずやめて、彼は女の目を見た。水を飲む。とても深い眼をしていた。底のない目だった。
タルデは頷いた。
「ま、そうだ。とっくの昔に廃村になっている、貧しい村の出だ。
長い話をしよう。とても長い話だ。時に、確か、明日は休みだったな?」
「‥‥そうだけど。‥‥今さらだがお前、不審だな」
言うと、タルデは苦笑した。その表情は年相応とは言い難い。何もかもをあきらめなければ、そんな表情は作れない。
「ま、確かに。
その説明を先にしたほうがいいのかな?だがそれだと叩き出されそうだしな。まぁ、おいおい説明しよう。とりあえずは、私の長い話を聞いてくれ」
叩き出されそうな事情なのか。思わず睥睨する。よく言われることだが彼は目つきが悪い、それでもタルデは特に怯む様子も見せなかった。
「そうだな――」
そうして、タルデは話を始めた。言うだけあって、長い長い話だった。




