13.
ノチェは山の中で目を覚ました。
「‥‥あれ‥‥?」
いつだって眠りに落ちるのは救いで、目を覚ますことは苦痛だったように覚えているのだけれど、けれど何がそれほどの苦痛だったのか、どうしても思い出せなかった。
「僕‥‥」
頭が重い。後頭部がずきずきと痛む。
そもそもなぜこのような山の中で倒れていたのだろう?と思い、座り込んだまま見回してそこが神様の祠の前だと気付いた。それは知れたが己が何故このようなところに倒れていたのか、の、答えはついに得られなかった。
「‥‥神様‥‥?」
人知を超えた何かが、手を差し伸べてくれたのだろうか。
そうではないような気はしたが、それでいいじゃないかと己の内から訴えるものがあったようにも思う。そのうち全てがどうでもよくなって、ノチェはふらりと立ち上がった。
通い慣れた道だ。獣道だが、迷うこともない。
人知を超えたもの、それはつまり神様が、助けてくれた。それでいいじゃないか。何から助けられたのかも覚えていないけれど、それでいいじゃないか。
やがてふらふらと麓の村に辿り着いたノチェを出迎えた母親は、ひどく驚愕することになる。
暴君だった上の息子が焼け死に、ずっと手を差し伸べることもできずにいた、姿が見えなくなっていた下の息子が無事帰ってきたと思ったら、息子は上の息子の存在をきれいさっぱり忘れていたのだから。正直生存を諦めていた息子だった。生きていてくれたことだけでも嬉しいのに、優しい忘却は最早奇跡だった。
「神様の祠にいたんだ」
少し常人離れした笑みを浮かべるようになった息子がそう言ったから、上の息子は神様に連れて行かれたのだと思うことにした。初めは狼狽もし、戸惑ったが、そのうちに母親も上の息子のことは忘れてしまうことにした。
「人間って本当に殴ると記憶を失うものなんですね」
「‥‥偶然だろ」
あるいは、
「忘れたかったんだろ、坊主自身がよ」
「そんなものでしょうね」
どことなく満足気に頷くタルデを横目に、おっさんはわざと声に出して溜息を吐いて見せた。実際のところ呼吸はないからふりしかできないが。
「お前さん、力押しも大概にしとけよ‥‥」
「細かい事考えるのは私の役目じゃないんですよ」
それはマーニャの役割だから。口の中で呟いて、タルデは麓に背を向けて山を登る。その腰には、2本の剣が佩かれていた。




