12.
その部屋は離れだったから、特にほかの住民に火事を告げて回ったりなどせず、すぐさま山へ入った。
「剣はどこにあると思う?」
「さぁ」
ノチェの兄だという人物が、離れで散らばっていたものだとするならば、ノチェの兄が剣を持って何かをしでかすかもしれないという訴えはまず間違いだということになる。では事実は何なのか、と考えて、考えるまでもないなとタルデは思考を放棄した。ただひたすら獣道を行く。
「持ってはいなかったな?」
主語抜きでおっさんは言った。それで充分に話は通じた、だからタルデは首を横に振った。背中を追ってきているおっさんになら、返答は通じたはずだ。
「離れにもなかった。とくりゃ、ことによったら元あった場所に戻してあるかもしれんな」
祠を回り込んで山道に入ろうとしたところでその言葉を聞き、つられるようにタルデは振り返った。
「‥‥本当ですね」
「ただの人間が、ただの人間のまま、アレを持ち運べただけでも驚きなんだがな」
かつてタルデが放り出した剣が、かつて放り出した場所に突き刺さっていて、けれどそれはかつてよりも浅く。
そしてその前には、放心したようにそれを見つめているノチェの姿があった。
「どうしたもんだかな」
至極面倒臭そうにそれを見やって、おっさんはぼやいた。
タルデはいつもの無表情のまま、ノチェの背後から声をかけた。
「斬ったのは兄だけ?」
途端弾かれたように振り返ったノチェの目は、無邪気な少年のものではなかった。温度のないものではない、ただ冥い眼差しだった。怒りではなく、憎しみだとか恨みだとか、そういった爆発できない感情が凝り固まっていた。
「そうだよ」
変声期前の少年特有の高い声。なのにどこか重く響いた。
「兄さんが悪いんだ。兄さんが、僕を――」
「詳細は聞きたくない」
あっさりと遮って、タルデは少年の横をすり抜けて剣を抜いた。
そして振り返る。
「お前も忘れてしまうといい」
全ての鬱屈をぶちまけるつもりだったノチェも、それら全てを受け止める気でいたおっさんも、どちらも取り残す形で、タルデは無造作に腕を振った。




