11.
結局おっさんはタルデを止めきれずに、二人は静かに部屋に入り込んだ。
「‥‥こいつは‥‥」
入る前から予感はあった。というよりも、嗅覚に訴えかけるものはあった。
だがそれを無視して扉を開いた、その眼前にさらされたものは、赤。獣脂の燃える匂い、その炎に照らされて、ただ、赤。
「‥‥」
タルデは無言で一歩を踏み出す。その足元で、ぴちゃりと濡れた音がした。
タルデはかつて、同じような状況を作り上げたことがある。
「‥‥さて」
おっさんは入ろうとしなかった。ただ、目だけは凝らして逸らさなかった。かつてタルデが作り上げたものと同じような、けれどまるで違うこの状況。
「‥‥お前さんは剣で実験を繰り返していたな」
「えぇ。すぐに飽きが来ましたが」
「その結果を鑑みて、この状況をどう考える?」
厳しい目で室内を見据えるおっさんからは、一歩前にいるタルデの表情は見えないはずだ。
「――あの剣で滅多斬り」
「‥‥だろうな」
吐き捨てる声に、感情はまるでこもらなかった。
タルデは近くにあった肉塊を蹴飛ばす。びちゃりと壁にぶつかったそれは、それでいながらひくりひくりと動いていた。
「――燃やすしかないですね」
「あぁ――‥‥剣は、」
「ここにはありません」
懸念はある。果たして散らばるそれらを集めたところで、ひとり分になるのだろうか、という。苦痛がないのは辛うじて救いだろう。見回して、転がる生首と目が合って、それが物言いたげに瞬いたが声帯がないから言葉はなかった。
だからタルデは無言で腰の剣を抜いた。これはただの剣だ、ただごく当たり前の死を与える剣だ。
「‥‥意識がないほうが幾分かましでしょう」
呟きながら叩きつけた。問いかけに意味はないからしなかった。問答無用で終わりを与えた。タルデにはそれしかできなかった。
そして無造作に燭台を落とした。
「ひと言言ってからにしてくれや」
おっさんのぼやきは無視をした。ただ炎に背を向けて、部屋を出た。




